毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
そっと目を閉じると、周囲がざわついている中で、なっちゃんがひときわ大きい歓喜の声を上げたのが耳に響いた。
手首への負荷はなくなり、今度は全身に温もりを感じる。
一度唇が解放され、再び顔が近づいてくるその間に見えたナンパ男は唖然としていて、誰が見てもわかる敗北者となっていた。
玩具のように弄ばれていた身としては胸のすく思いで、唇で温かな愛を受けながらも内心では"ざまあみろ!"と毒を吐く。
最後におでこにそっと触れるだけのキスを落としたあと、やっぱり切なげな表情を浮かべた慎くんはナンパ男に向き直った。
……恋人として私は確かに目を閉じてキスを受け入れたのだけど。
慎くんはなぜまだ何も手に入れていないような、何かを待つような、寂しい顔をするのだろう。
私が隠せていると思っているものは意外と相手に透けているのだろうか。
「俺達はこういうこともするんだ。目の前で見られて満足しただろ?わかったら二度と俺達に関わるな」
今度は優しく手を取ったかと思うと、私を連れて人の間を縫い、二人でその場を足早に退散した。
完全に戦意喪失したナンパ男はそれを引き止めることをしなかった。