雲居の神子たち
「ごちそうさまでした」
店を出ると、私たちは尊に頭を下げた。
もう二度と会うことはないかもしれないけれど、私は彼のことを忘れないと思う。

「元気でね。勉強頑張って」
そう言うと右手を差し出す。
私もためらわずに握手をした。

その時、
「うわー、ひかり玉だ」
言いながら、八雲がかけだした。

「ちょっと、八雲」
私も慌てて後追う。

小さな夜店の軒先にガラス瓶に入れられた光る物。
「これが、ひかり玉?」
噂でしか聞いたことがないけれど、東の國の山奥にのみ生息するこけの一種で、夜遅くになると自分で光り出すのだそう。
とても珍しい物で、ガラス瓶に入れて鑑賞する物らしい。

「小さい頃家に飾ってあって、光るのを見たいのにいつも寝てしまって見れなかったの」
懐かしそうな八雲。
「買ってあげるよ」
須佐が言い、2人は店の中に入って行った。

私は店先で2人が出てくるのを待つ。
尊はすでに、道を反対に進んでいて背中しか見えない。

なんだか、素敵な人だったなあ。
なんて思っていたとき、

ああ、あああっ。
私は急に口をふさがれた。

ハンカチのような物で、口と鼻を覆われ、嗅いだことのない臭いが・・・

そのまま、私は気を失った。
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