雲居の神子たち
「お前は馬鹿か」
部屋の隅で背中にみんなの視線を感じながら、冷たい声で言う。
「何でよ。お金があれば、解決するんでしょう?」
「本当に馬鹿だなあ」
何よ、馬鹿馬鹿って。
お金がなくて苦労しているんだから、用意できるなら貸してあげるって普通の発想だと思うけれど。

「あのな、出所の言えない金は人を不幸にするんだ」
「言えなくないわよ。私にもらったって言えばいいじゃないの。それで借金返せば、白蓮は自由になれるでしょ」

はああ。
尊の大きなため息。

「相手の目的は金じゃない。白蓮なんだ。たとえ金を返しても、今度は違う手で白蓮を狙ってくる。意味がないんだよ」
叱るように言われて、言い返せなくなった。
確かに、白蓮が目的である以上、今回の借金を返しても解決にはならない。

「それに、深山にいるはずの皇子様がお金をくれたと言って、信じてもらえると思うのか?お前だって、深山を抜け出してここに来たことを言えるのか?」
「それは・・・」
言えない。

「じゃあ、どうするのよっ!」
他に解決法があるなら、教えて欲しい。
まるで駄々っ子のように、尊に迫った。

このまま、白蓮を差し出すの?
それとも、私が代わりに行けと?

困った顔をして、考え込む尊。
気がつけば、空が白みはじめていた。
残された時間は多くない。

「今夜、約束の時間までに考える。必ず何とかするから、稲早はじっとしていてくれ」
みんなには聞こえないように言われ、私に囁いた。

不思議だな、尊に「なんとかする」と言われると何とかなるんじゃないかって気になる。
それだけの力が、彼の言葉にはある気がする。
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