雲居の神子たち
「須佐」
遠くの方から、八雲が走ってくるのが見えた。

「どう?見つかった?」
「いや。どこにもいない」
「そう」
肩を落とす八雲。

稲早が姿を消したことに、八雲は責任を感じている。
八雲がひかり玉を見つけて、俺が買ってやろうと店に入った隙に、稲早がいなくなった。
決して八雲の責任ではないけれど、

「私がひかり玉につられて駆け出したりしなければ・・・」
と涙ぐんだ。

「もう少し、町の外れまで行ってみよう」
八雲の肩を叩いて、俺は歩き出した。

もう、この近くに稲早の気配は感じられない。

「そう言えば、尊の姿もなくなったわね」
突然、八雲が口にした。

尊・・・
確かに、彼の姿も見かけない。

もうすでに宿に帰ったかもしれないが、大きくはない町をこんなに探し回って気配すらないのは不思議だ。

「もしかして、一緒にいるのかなあ?」
「そんなことは・・・」

もしそうならば、それなりの事情があるはず。
急に姿を消せば俺や八雲がどんなに心配するか分からないはずはない。
稲早は、相手の気持ちを思うことのできない人間ではない。

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