雲居の神子たち
「雲居の国の皇子達は5歳の春を迎えると親元を離れて深山に入るのよ」

「へえ5歳」
白蓮が驚いている。

「まだ物心つくかどうかって時に父様とも母様とも会えなくなるの」

「寂しいわね」

「そうね。最初はずっと泣いていたわ。でも、すぐに宿舎に入れられてばあやとも会えなくなって本当に一人になった時気が付いたの。寂しいのは私ひとりじゃないって」

「一人じゃない?」
不思議そうに身を乗り出してきた白蓮。

「そう。毎年何人かずつの皇子が同じように連れてこられるから、必ず仲間がいるのよ」

「仲間?」

「私にも二人の仲間がいるの。悲しいことも、うれしいことも、楽しいことも一緒に体験した仲間。二人がいるから、私は生きてこられた」

「素敵ですね」

「そうかもしれないわね。でもね、私にだって不満はあるの。もっと母様に甘えたいとも思うし、もう少し人並みの外見なら暮らしやすいのにと」
「外見なら私のほうが」
思わず出た白蓮の言葉が話を遮った。

ふー。
私は一つ息をついた。

「変なことを言って、ごめんね。でも、私の国ではこの容姿でも十分異端なの。実際、私が生まれた時には母様が不義を疑われて騒ぎになったらしいわ。大巫女様のお告げで何とか収まったけれど、今でも私を不義の子と思っている国民はいるの」

「そんな・・・」
白蓮の目に涙が浮かんだ。

よく考えれば、どこのどいつと浮気をすれば漆黒の髪と健康的な肌色の母様から私のような人間が生まれるというんだろうか。
考えればわかることなのに。

「大丈夫、もう吹っ切れているから。私は深山を降りる年齢になっても国には帰らないと決めているの。深山に残って巫女となるわ」

はっきりと宣言した私に、白蓮は何も言わなかった。

その後、私は深山での暮らしぶりをかいつまんで話して聞かせた。
白蓮は異国の物語でも聞くように、目を輝かせて聞いていた。
お互いに今夜人生が終わるかもしれないのに、すっかり忘れて話し込んでしまった。
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