雲居の神子たち
雲居は風の強いところ。
特に深山はいつも木々の揺れる音がする。
初めてここに来たとき、なんてうるさいのだろうと驚いた。

しかし、
「稲早。大きな声を出してはいけません。声を大きくするのでなく、よく聞くのです。耳を澄ませば、ちゃんと聞こえてきます」
来たばかりの頃、朝倉神官に言われた。

どれだけうるさい風の中でも、ちゃんと意識すれば、必用な音を聞き分けられると。

そして、雲居は名前の通り雲の消えない土地。
いつも雲に覆われてすっきり晴れることがない。

先の見通しの悪い山の中を歩きながら、
「前だけでなく、周りにも注意を払いなさい。木々が揺れる様子や、気配を感じて先を予見しなさい」
見えない物を感じ取れと教えられた。

そうして神経や感覚を研ぎ澄ましながら育っていくうちに、私たちは不思議な力を身につける。

例えば、使用人に病人が出たとする。
当然医者ではないから治療はできないけれど、病人を診ているとふと気付くことがある。
『あれ、妙に左の脇腹が引きつっているな』とか、
耳を当てたときの呼吸や血流音の変化。
そんなことから、病気の原因に気付く。
そして、私たちを神の子と信じる者たちは手を当てられたことによって回復する。
要は気の持ちよう。

もちろん、こうして神様に使えている以上、私は神様を信じている。
人の知恵では計り知れないようなことがたくさん起こっているのは事実だから。
でも、私は神の子ではない。
特別な力も持ってはいない。
ただ、丁寧に生きることを教え込まれただけ。
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