雲居の神子たち
「さあ、行こう」

石見に声をかけられ、私は腰を上げた。

これから先は岩見が相手の家まで連れて行ってくれる。
もちろん、門を入れば私一人だけれど覚悟を決めた以上行くしかない。

「白蓮、体に気を付けるのよ」
不安げなお母さん。

「大丈夫だから」
白蓮は精一杯笑ってみせる。

いつかまた親子で笑いあえる日が来る。
今は、それを信じるしかない。


石見に連れられ町に向かう私と、八雲と宇龍に連れられ山の方に向かう白蓮。
白蓮は山を越え隣の町で志学と合流することになっている。
はじめは志学と白蓮で逃げる計画だったけれど、夜道は宇龍や八雲が一緒の方が安心だろうと計画変更となった。

「稲早さん、お元気で」
「白蓮もね」

私たちは家の前で別れた。
もう二度と会うはずのない私と白蓮。

いつか、遠い未来に、私と白蓮が明るい日差しのもと笑いあえる日が来ることを信じたい。
持って生まれた運命はどうしようもないことだけれど、精一杯生きて幸せを見つけてほしい。
遠ざかる白蓮の背中を振り返り、私は覚悟を新たにしていた。
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