雲居の神子たち
「ここだよな?」

駆け足で20分ほど走った町外れの別荘地帯。
久しぶりに全速力で走った。

一体いつどうやって稲早をつれ出したのか今となってはわからない。だが、目の前の屋敷には明かりがついていて誰かがいるのは確かだ。

周囲の家よりもひときわ大きい男の別邸。
高い塀で囲まれた屋敷の中から明かりが漏れている。

「ここで間違いないようだな」
悔しそうな尊。

まさかこんなところに連れてこられたとは思っていなかっただろうから、尊の計画が狂ったのだろう。
何か思案するようにキョロキョロと周りを見て時々高い壁を見上げている。

「で、どうするんだ?」

尊に頼るようで申し訳ないが、正直俺には何の策もない。
米問屋に監禁されていたのなら火事を起こしそのどさくさに紛れて稲早を連れ戻す計画だった。
多くの使用人が出入りする店舗なら火の不始末で火事が起きても不思議ではないし、そのために店の見取り図を手に入れていた。台所の焚口からでも出火したように見せかけようと準備も整えていた。
しかし、男の別荘となると話も違う。
人の出入りは限られるし、家の作りも全くわからない。どこに何があり誰がいるのかが分からなければ手も足も出ない。

「偵察を潜り込ませたから何かあれば連絡が来るだろう。しばらく様子を見よう」
落ち着いた風はしているが尊もいつもよりも苛立っている。

不安な気持ちは尽きないが、尊の言うように今突入するのは得策ではない。
もう少し様子を見よう。
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