熱い熱がたまる
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✴︎


貴文が出てきたとき、舞香は椅子に座っていた。

貴文の髪が濡れている。


「あの⋯⋯」


なんか、つまったみたいに、声が出しにくい


「えっと⋯⋯ 」


手を組んで。ぎゅっぎゅっ、とした。


「お腹空きません? なんか、ルームサービス⋯⋯ 」


と言っていたら、貴文がなんとなく複雑そうにふっと笑った。


「お前のそれ、くせ? 」

「えっ? 」

「手をぎゅっぎゅって」

「あっ」


そう言えば。
舞香は困ったり、緊張するとこんな風に手を組んで、マッサージみたいにして、血を巡らそうとしてるかも、と気がついた。


「ほんとですね、自分ではあまり気が付かなかった」


と恥ずかしそうに笑って、


「北川さん、よく見てるんですねー」


と何気なくにこにこと貴文を見た。

貴文は笑ってなかった。
じっと舞香を見ていた。
視線が絡んで、
貴文が口を歪めた。
歯がギリッと音を立てた。


「見てるよ」

「えつ? 」

「熱がたまるんだ。

観戦した後、やたらとシたくなる。

わかるだろ? 」

「⋯⋯ 」


急に部屋の濃度があがったような気がした。

濃い、熱い。
息の詰まりそうな空気に飲まれる。

この熱がそうなのかな?
わかんないよ。
熱い熱いもどかしさ?

体中の熱が行き場がない、。
熱くて奥底から何かユラユラする。
何かが足りなくて、欲しいのかな、わからないけど。

(私、こんなことするようなタイプじゃないと思ってた)

付き合ってもいない人と2人きりになったり。
なのに、今までで一番安心してたり。

こんな急な熱病にかかったみたいに、おかしくなったり。

もちろん現実も忘れてない。

でも、もう、今、この状態は全然現実じゃない。

それどころか、自分ですらないみたいに。

まるで他人の人生になってしまったような、

って、そんな、非現実感で、もう引き返せない現実がはじまってるんじゃないの。

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