さあ、有象無象
 

 男が顔を上げると、正面の色白黒髪の青年は組んでいた手を解き、ソファにふんぞり返った。

 
「そんなことを(のたま)いに来たのか俗物が。貴重な睡眠時間を割いて傾聴し費やした僕の人生8分43秒に関して、君はどう責任を果たしてくれるというのだろう。乞うご期待と言ったところか、いやこの場で贖って貰おう。具体的な今後の傾向と対策を400字詰め原稿用紙に5分以内で記載しろ。後に僕が添削する。それでは張り切ってどうぞ」

「…あ、あの」

「あ、すいません気にしないで続けてください。この男馬鹿なんです」


 馬鹿と天才は紙一重、越前(えちぜん)(はじめ)はその権化、と背後を取って真後ろから後頭部を上履きを履いたままぐいぐい押してやるのに、諸共しない。この屁理屈、害悪、蔑視の三拍子を取り揃えた穀潰しは知能を兼ね備えただけの筋金入りの石頭だ。

 いや、知識を兼ね備えているからこそ脳味噌に皺と言う皺が刻まれて最早石化したのでは? と窓際に立った力丸(りきまる)が帰途で側溝に嵌る呪いを掛けていると、その白い手が〝依頼人〟に姿勢を向けたままこの足首を鷲掴んだ。


「黙れ野ゴリラ。僕はかの有名な創造者ゼウスを同称する全知全能を携えた神だぞ、貴様らとは頭の出来が違うんだ頭が高い」

「日本語喋れってんだよこの屁理屈で塗り固めた頭ガチガチ石頭野郎が、神なら今すぐ降ってる雨止ませろよ傘忘れたんだよ」

「貴様風情の脳筋にはわかるまい、愉快だな野ゴリラ、ささやかな神の思し召しだ水浴びしながらせいぜい濡れそぼって帰るがいい」

「ぶっ殺す!!!」

「あのー!!」
















「盗作?」

「…はい。僕は趣味で自分の小説を投稿サイトに掲載しているんですが、特定のアカウントです。もしやと思ってここ数ヶ月の描写、展開、結末で酷似している部分をプリントアウトしてきました」


 かつて校長室に配置されていたお古(・・)のソファに気怠げに座っていた越前が身体を前に倒すと、彼は机上に幾つかのコピー用紙を満遍なく並べた。
 さして興味もなさそうにその三つほどに目を通した越前が、また欠伸を噛み殺す。


「サイコシリアスか。…これ刑事が犯人だろ」

「わ! さすが! IQ180の秀才は違うなあ! なんでこんなとこにいるんですか」

「秀才にも秀才なりの苦悩があるのだ。背後の茶髪ポニーテールの皮を被った握力56の正体野ゴリラが我々人間と共存する為に奮闘しているのと同じでな」

相田(あいだ)先輩でしたっけ。人を殺す度胸はありますか」


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