さあ、有象無象
「進捗どうだい」
「言葉の暴力が痛くて私はもうきゅんに逃げることにした。今高校の物理教師と女子高生のじれきゅんラブコメ読んでる、津波先生尊い、もう来世は私津波先生と付き合うんだ、現場からは以上です」
「タンクローリーに一度潰されたらきみのその能天気な脳味噌も少しはまともに働くんじゃないだろうか」
「かっこつけて雨に濡れて39度出してぴえんスタンプ送ってきた男が生いってんじゃねーぞミンチにすんぞ? お?」
「野ゴリラの握力ならしかねない」
「ガチで背中に気をつけろよ越前」
「特定できたのか犯人は」
「越前の冷徹な心であればこのコメント欄見ても心痛まないかもね。私はやさしすぎてノックダウンだった。バトンタッチ」
「見せろ」
季節は春だというのに学ランにショールを羽織り、額に冷えピタを貼った越前が力丸のスマホを受け取り、骨のような指で画面をスクロールする。しかししばらく見てからスマホを突き返し、北棟隅の隠れ家「名誉会」教室の真ん中に位置したテーブル、その両側を挟むように置いたソファの片割れに寝転んだ。
「さっ僕もたまにはシリアスサイコサスペンスに身を投じることにしよう」
「涙目になってんじゃねーか。いきろ」
「いつの世も我々は紙一重の部分を握っている。言葉は暴力だ。そして人を救う」
「わかったから涙拭けば? あふれてるよ」
お前心優しかったんだな、と身近にあったティッシュ箱を手繰り寄せて差し出してやれば受け取り、ちーん、と鼻をかむと顔を上げる。そしてどこからともなく取り出したA4サイズの茶封筒を机上に放り、骸骨のような血色の悪い男は頭にショールを被る。
「これは」
「この二日僕が黙って高熱に魘されたとでも思ったか脳筋ゴリラ。調査をしていたのだ。初めから君には期待など抱いていなかった。所詮は愚行録、人間の裏も表も開示したところでな。愉快だぞ、醜態や根底についてまざまざと見せつけてくる。やはり来世は願わくば石だな」
「………あんたが特定した人間…これ、泉真高校2-Bって…うちのクラスの、」
「ところでこの部屋寒くないか」
〝春が正直好きではない。
始まりと終わりを知らしめて道行く人の多くがどこか浮き足立っているのも不愉快だ。水間は憔悴していた。〟
「さては自伝か」
顔を上げる。冷えピタを貼った血色の悪い色白学ランの青年と、覇気のありそうな茶髪ポニーテールの女子生徒がぼくの前に立っていた。