さあ、有象無象
 

「わかるように話して」

「怨嗟が関与している可能性について先程明示した。書籍化を検討している出版社や担当も投稿サイトに不穏を(もたら)している以上、事態の収拾が付くまで出版の前段階で足踏みしている。…本が出るのが先延ばしになっている、このまま終息が見えないようなら取り消しの可能性もあると相田光輝は嘆いていた。Xは恐らく相田の出版自体を取り下げるまで盗作を続行させるつもりだ。事実、担当側からも疑われたそうだ。

 〝投稿しているサイト内の作家から引用した部分はなかったか〟と」

「…そんな、インスパイアなんか誰だって受ける事象でしょ」

「文面の一言一句と起承転結までお揃いの鼓吹か。現時点で地球に70億の人類が生息しているが、僕が今ざっと見積もって計算しても本件の確率を見出そうとしたら全体の20%以下」

「比較的多くない?」

「そうだな。内の18%は相田光輝のネタを把握していた身内の場合が条件だ」

「…身内に犯人が?」

「あくまで仮定の話をしている。そこから(ふるい)に掛けるのがきみの仕事だ。濃厚なのは内の2%だけどな。きみには辿り着けまい、力丸くんの調査と並行して僕が担当しよう」

「100ある内の70を一気に切り捨てた。ひょっとすると70に犯人がいるかもしれない。なのに濃厚なのは2%ってどんどん少ない方向を選ぶなんて、なんでそう思うの」


 立ち止まった先を歩いていく。

 静かな雨が降る中を越前は立ち止まり、琥珀色の眼を瞬いた。


「僕が犯人ならそうする」













 調査はこの上なく難航した。格好つけて雨の中を立ち去った病弱体質越前は翌日二日も学校を休んだ上、そうこうしている間にも〝盗作〟の犯人が目に見えない力で相田光輝の行手を阻んでいる。
 大衆は時に群れを成し、個体が密度を増すと本質が消失するというのは、いつかに越前が言っていた言葉だ。大は小を兼ねてしまう。それは良くも悪くも言え、この二日の間にも事態は終息どころか炎上していた。火種がどこからかはわからない。



《○○さんのネタパクってるって本当ですか?》

《確かに描写似てる》

《もうしおり外します》






《つまんな》

《まだいたの》

《書籍化反対サークルつくりました》



《アカウント消せよ盗作作家》



「力丸くん」



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