御手洗くんと恋のおはなし
 ようやく立ち上がった大谷を、満は「やっぱりデカいな」と見上げた。満も高い方ではあるが、大谷はそれ以上でとにかく目立つ。
 そんな二人に、隣のコートから声がかかった。

「なぁなぁ、こっちとも試合してみない?」

 それは隣で同じく合同授業をしていた三年生だった。
 声をかけてきた相手に、満の細い目が一瞬見開く。
 坂本智也(さかもと ともや)。和葉が今片想いしている、いわば満の恋敵だったからだ。

「え、良いんすか?」
「おう、先生もオッケー出してくれたし」

 誰にでもすぐに打ち解けられる大谷は、坂本と笑って会話をしている。
 満も人の良い仏顔を貼り付けて、恋敵に声をかけた。

「坂本先輩、バスケ部じゃないですか。手加減してくださいよ?」

 すると坂本は、爽やかな笑みを満に返した。

「そっちはデカいの二人もいるんだ。加減してたらやられちまうよ」

 憎めない笑顔だ。和葉もこの笑顔にやられたのだろう、と満が考えたとき。
 どこか見覚えのある顔がチラリと体育館入口から見えて、満はそちらへ近寄った。
 やはり、である。

「何してんの、カズ」
「うわぁ、みーちゃん目ざとい!」

 同じくジャージ姿の和葉。女子は外でバレーのはずだったが。

「サボってまで坂本先輩見に来たの?」
「違う違う! 突き指しちゃって保健室行ってたの」
「体育館に来る理由にはなってないけど?」
「う……いいじゃん、ちょっとくらい」

 満は、ほんの少しだけ口を尖らせる。

「今から俺たち、三年生とゲームするけどどっち応援する?」
「え、そりゃもう坂本先ぱ──ぴゃあっ」

 ペチコン、といつもより強めにデコピンを和葉に送る。
 一瞬の迷いもなくライバルを応援されては、恋する少年の立場はない。

< 24 / 109 >

この作品をシェア

pagetop