エリート外科医の灼熱求婚~独占本能で愛しい彼女を新妻に射止めたい~
 




「おい。また中央総合病院の外科医局から出前の注文だ。届けてこい」


 近衛先生と初めて話をした翌々日。

 私はまた、中央総合病院に出前を届けることになった。


「今回は天津飯と餃子セットに回鍋肉、それと特製チャーハンの注文だから、お願いね」


 思わずドキリとしたのは、一昨日のできごとを思い出してしまったせいだ。

 この間、近衛先生が注文したのも特製チャーハンだったけど……。もしかしてまた、近衛先生からの注文かな?


「百合? 聞いてる?」

「え……? あ、も、もちろん! 聞いてるよ!」


 つい余計なことを考えてしまった私は、お母さんに声をかけられて慌てて我に返った。

 いけない。仕事中なのに。

 でも、近衛先生に『百合』と呼ばれたときのことが頭にこびりついていて、ふとしたときに、今のように思い出してしまうんだ。


「おい、百合! 忙しいんだから、さっさと行ってこい!」


 と、まるで私の胸の内を見透かしたかのような、お父さんの喝(かつ)が入った。

 同じように名前で呼ばれるのも、こんなに違うなんて……。

 でもまぁ、やっぱり名前で呼ばれるくらい、大したことではないということだ。


「天津飯と餃子セットに回鍋肉、それと特製チャーハンね」


 私は首を横に振ってから、注文の品を復唱しつつ配達用のカバンに品物を詰めた。

 もう、考えるだけ無駄だ。

 近衛先生だって、別に深い意味をこめて名前で呼んでいいか聞いたわけでもないだろう。

 
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