エリート外科医の灼熱求婚~独占本能で愛しい彼女を新妻に射止めたい~
 

「それで……私は、実家に逃げ帰りました。ひとりでいると、そのことばかり考えてしまうから……。静かな部屋の中に、ひとりでいたくなかったんです」


 当時のことを思い出したら胸が苦しくなって、苦笑いがこぼれた。

 二十六の良い大人が、ひとりでいるのが怖くて実家に帰ってきたなんて……情けないにもほどがある。


「両親には、心配をかけてしまうと思ったら本当の事は話せませんでした。特に血の気が多い父には……だから、父が私を責めるのも仕方がないんです」


 父からすれば、自分が必死に働いたお金で大学まで出した娘が、突然なんの相談もなしに仕事を辞めて帰ってきたとなったら、腹が立って当然だろう。


「でも、実家に帰ってきて野原食堂で働かせてもらえたことは幸運でした。いつも賑やかで忙しい野原食堂は、私から余計なことを考える時間を奪ってくれたからです」


 働く時間が増えれば増えるほど、弱い自分と向き合わずに済んだ。


「結局、私は逃げてるだけなんですよね。さっきだって、遠野くんを前にしたら身体が竦んで言うことをきかなくなって……。ほんと、情けないです」


 そこまで言うと、私は手の中のココアの缶を握りしめた。


「さっきは助けてくださって、本当にありがとうございました。それと、こんな話を聞かせてしまって本当にすみません」


 言いながら私は、今度は曖昧な笑みを浮かべた。

 いよいよ、近衛先生にも呆れられてしまったかもしれない。


「……つらいときに、笑わなくていい」

「え……?」


 だけど、不意にそう言った近衛先生は、私の手に重ねていた手に力を込めた。

 ハッとして顔を上げると切なげに私を見る先生の目と目が合って、胸がギュッと締め付けられる。

 
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