褒め上手な先輩の「可愛い」が止まりません
ハッと気づいて周りに視線を移す。
……見られてたよね。
転びそうになった時、声出ちゃったもん。
みんな平然としてるけど、多分気づいてるはず。
やってしまった……。
────
──
「もー、終わってたんなら先に言えよ」
「ごめん、一緒に練習しようって誘われちゃってさ」
スタート地点に戻ってきたタイミングで、兄がようやくトイレから戻ってきた。
下の階の廊下で須川くんと一緒に歩いていたらしい。
良かったー……。
須川くんに見られてたら、明日会うの気まずくなるところだったよ。
「まぁでも楽しかっただろ? 来週もやるか?」
「いや、衣装作んないといけないから。でも楽しかったから、休憩時間にまたお邪魔するよ」
「またね~」と先輩は手を振って被服室に戻っていった。
否定しなかった……。
あんなにガッツリ抱きついちゃったのに、嫌じゃなかったの?
もしかして、私がいる前だったから気を遣っただけ……?
少し首を傾げて、閉まった被服室のドアを見つめると。
「実玖はどうだった?」
「えっ……あぁ……」