褒め上手な先輩の「可愛い」が止まりません
私を下ろした後、部屋を出るかと思いきや、兄はそのまま椅子に腰かけた。



「……な、何か用?」

「勝手に盗み聞きしてごめん。色々言いたいことあるけど、全部話すと長くなるから手短に言う」



真剣な顔を向けられ、ピシッと姿勢を正すと。



「もっと怒っていいんだぞ」

「……え?」



何のことかわからずポカンとしていると、呆れたように溜め息をつかれてしまった。



「一方的な理由で言いがかりをつけた草山さんに非があるのに、なんで実玖が謝るんだよ」

「それは……一応、先輩だから?」

「それなら、ガツンと言い返した小山も先輩だぞ」



うっ……そうだけど、そもそも小山先輩と草山先輩とは交流期間が違う。

しょっちゅう話してた小山先輩に対し、草山先輩とは数回しか話していない。



「実玖はさ、優しすぎるんだよ。体型いじりされた時もずっと我慢してたし。嫌なら嫌って言っていいんだぞ」

「うん……」

「自分の気持ち、押し殺さなくていいからな」



……パタン。



「っ……」



1人になった途端、抑えていた感情が一気に込み上げてきた。

お兄ちゃんのバカ。
かっこつける相手、間違ってるよ……。


テーピングされた右足にそっと触れ──頬を伝った涙を静かに拭った。
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