王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
「私が昔読んだ東洋の書物では、戦は開戦前で8割方勝敗が決まると。兵を突っ込ませ戦うだけが戦ではない。情報収集と交渉もまた必要な戦略だ」
まずは相手を知ることが始まりだ、と王太子殿下はおっしゃって。公爵から開示された古地図を眺めてた。
「……これは、ずいぶん旧いな。だが、面白い」
「ですね。かつて鉱物の発掘と石切りで栄えただけありましょう」
馬車の中で広げた古地図を指でなぞり、ある場所を指した殿下はにやりと笑う。カインさんも賛同したのか、大きく頷いたけど…。
ピイィ、と笛の様な鳴き声が森に響き、バサバサッと羽音を立てて隼(はやぶさ)が、殿下の腕に留まった。
「よし、よく帰ってきたな」
ご褒美に干し肉を与えた殿下は、隼の脚に括られた紙をガサガサと開く。
そして、フッと笑った。
「予想通りだ、カイン。フィアーナの正規軍の格好はしているが、練度がバラバラ…傭兵を使った陽動だな」
「で、あれば…」
「ああ、狙いはやはり砦ではない……公爵邸だ」
「おそらく採掘後の地下道を使うでしょうね」
(公爵邸…!?)
「で、殿下…!なら、早く助けにいかないと!!」
わたしがそう懇願しても、王太子殿下は首を縦に振っては下さらなかった。
「今は、待て。焦る気持ちはわかるが、じっとしていろ」
王太子殿下は涼しい顔でそうおっしゃった。
「動く時には相応しい“刻”がある。やみくもに動けば、チャンスを逃すばかりかデメリットだらけだからな」
“刻”……。
軍事に素人のわたしがわかるはずもなくて。
緊張しながら、時間の経過を見守る。