Livre magic〜温もりと冷たさ〜
でも、今の僕は太宰修也じゃない。僕を大切に想ってくれる人が周りにたくさんいる魔法使い兼小説家のノワールだ。異世界転生してよかったな、と心の奥底で思っていたことがフッと口から出そうになった。

「僕、メルキュールやエリカたちのことを忘れたままだったらって想像したらすごく怖かった」

僕はそう言ってメルキュールに顔を埋める。思い出せてよかった。大切な人たちとの温かい思い出や言葉、そして何より好きな人への気持ちさえ忘れてしまうなんて、想像すらしたくない。

「思い出してくれてよかったよ、ノワール」

メルキュールの声はどこか震えていた。そして、温かい雫が落ちてくる。メルキュールがこんな僕のために泣いてくれている。そう思うと、心がジワリと温もりに満ちて僕の瞳にも涙が浮かんだ。

「さて、そろそろ行こうか。物の怪を倒さないと!」

しばらくしてからメルキュールが元気よく言い、僕を離す。僕もコクリと頷いた。

「行こう!」

物の怪の気配がする方へ、僕とメルキュールは走った。
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