Livre magic〜温もりと冷たさ〜
一 かけがえのない温もり
魔法使い兼小説家の僕、ノワールは友達のメルキュールと抱き締め合っていた。メルキュールの体温、心拍、全てが僕を安心させる安定剤となってくれている。

僕は、何者かによって小説の中は無理やり閉じ込められた。その時のショックで一時期今世の記憶を失い、前世の太宰修也(ださいしゅうや)の記憶しか頭になかった。

でも、本の中に来てくれたメルキュールが僕にこの温かい今世の記憶を思い出させてくれたんだ。

「メルキュール、ありがとう」

何度目になるかわからないこの言葉を言えば、メルキュールは照れたように「そんなお礼を言われることじゃないよ」と返す。僕は抱き締める力をさらに強め、笑った。

太宰修也の人生は、僕の頭に残っている限り、悲しみと絶望にあふれたものだと思う。両親からは虐待され、他人の顔色を伺って生きて、最期は応援してくれていたはずの人たちの心ない暴力によって自ら死ぬことを選んだ。これ以上の悲劇はきっとない。
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