【短】偽物lovers〜別れ話をしたら告白された〜






「何言っているの?矢野くんは片岡さんのことが好きなんでしょ?」

「そうだよ。好きだよ。いや好きだった。ずっと好きだと思っていたけど吉田さんと付き合うようになってから気づいたんだ。あれは家族に対する好きだったって」

「…え?」

「親愛と愛は違うでしょ?恋焦がれるような、こんなにも苦しい想いを抱いたのは吉田さんが初めてなんだ」

「え、え、はい?」


困惑する私を優しくどこか仄暗い笑みを浮かべて見つめる彼。

夕日を後ろに立つ彼はあまりにも綺麗だが、その分影も濃く、何故か不穏な空気を纏っているようにも見えてしまう。


「吉田さんにはもう俺が必要じゃないかもしれないけど、俺には吉田さんが必要なんだ。だから別れられないようにしようと思う」

「ん?」

「俺の下僕…という名のファンはいっぱいいるからね。それも忠実で過激な。だから彼女たちに吉田さんに騙された、遊ばれたと泣くよ。そうすれば吉田さんは次の日から学校には来られないほどの惨状が待っているかもね」

「え、私脅されてる?」

「うん。そうだよ」


悪魔、悪魔と私自身をそう呼んでいた私だったが、ここに私よりも飛び級の悪魔がいた。
彼は変わらず私に仄暗い笑みを見せる。


「さあ、どうする?吉田さん」


落ち着いて、私。
何故、彼はこんなにも豹変してしまったのか。

これは彼も私のことを好きだということでいいのだろうか。
かなり特殊な形で想いを知ることになってしまったが。


「正式に付き合ってください!」

「はは、賢いね、吉田さん」


嬉しくて私は涙を目一杯に溜めながら彼に叫んだ。彼の笑顔は未だに仄暗いがどこか嬉しそうだ。

え!つまり本当に!私と矢野くんは両想いで正式なカップルということですか!?


「これからもよろしくね、吉田さん」

「うん」

「もう吉田さんは俺の彼女なんだから他の男と話しちゃダメだよ」

「うん」

「…今まで我慢してきた分いろいろしちゃうけど覚悟してね?」

「うん」


念願叶って放心状態の私に彼が笑顔で何か言ってくれているが返事をするので精一杯だ。


放心状態で涙目の私と仄暗い笑み浮かべている彼。
夕日がロマンチックに私たちを照らす。

今日から私たちは正式な恋人だと胸躍る中、彼は一瞬だけどこか苦しげな笑みを浮かべた。


「泣くほど嫌なんだね。だけど俺は吉田さんをもう離せないから」


彼が何か言っていたがその声は小さすぎて私の耳まで届かない。




end.












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