悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
 つーか、白亜の塔ってそんな簡単に使用できるものなの? ってだれか突っ込んであげて。

「話にならないわ」

 レイアがアレックスに向かって腕を振り上げたとき、室内の窓に一斉にひびが入り、そして大きな音を立てて割れた。

 ガラスが一斉に割れた音に驚いてわたしは耳を塞いだ。窓辺にいたお偉いさんの一人は、とっさに魔法を使う暇もなかったのか、腕から血を流している。

 ヴァイオレンツはフローレンスを腕の中に引き入れて庇っていた。一瞬のできごとだったのに、その素早い動きがすごいとか思ってしまった。

 風が室内に入ってくる。
 その風がレイアにまとわりつく。

 レイアは「ああもう……」と額を押さえる。

「最悪の事態よ。わたくしの友人がいま、学園の空の上にいるわ。黄金竜は産卵直後情緒不安定になってね。……要するに、わたくしと違っていまの彼女に言葉は通じないの。卵を取り戻すまで暴れるわ」

 わたしの顔から血の気が引く。
 卵産む前からどこか人間に対して不審げだったルーンが、今回その人間に卵を盗まれて、穏便にことを終わらせるなんて、無理じゃない?

 なんて思っていると、窓の外から何かが壊れる音と、悲鳴が聞こえてきた。

「ていうか、他の卵は誰が守っているの?」

 わたしが疑問をこっそり口にするとティティがわたしの耳元でこそっと「あ、なんか旦那さんが戻ってきたみたいですぅ。ミゼル様が知らせに走ったみたいで」と教えてくれた。

 なるほど。
 外からは魔法の衝撃で何かが倒れる音と悲鳴が聞こえてくる。
 ちょ、早く卵を取り戻さないと本気で死人が出るんじゃ……。

「ていうか、リジー様。私の側から離れないでくださいねぇ」

 彼女はさっきからわたしのことを守ってくれている。ありがたい。
 そんなわたしたちの様子を見ていたのか、フローレンスが「わかったわ。仕方がないけど卵は返す」とレイアに向かって叫んだ。

「そんな!」

 この期に及んで不満そうなのはアレックスただ一人。
 かなりいい性格しているな、って今日悟ったよ。

「いいのか、フローレンス! きみだって黄金竜の卵を欲しがっていただろう? わたしは嫌だ。せっかく手に入れたんだ―」

「その代り、条件があるわ」

 不満たらたらに文句を言うアレックスの言葉をフローレンスは遮った。
 レイアはフローレンスを無言で見つめ返す。
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