悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
 レイアの漂わせる空気が数度下がって、わたしは隣が怖くて仕方ないけど。

「彼女は一言も譲るなどと言っていません。今すぐに返しなさい」
 レイアがぴしゃりと言い放つ。

「まさか卵一個のために別の竜までしゃしゃり出てくるとは」

 アレックスがやれやれと言った風に肩をすくめた。
 いや、自分の生んだ大事な卵が盗まれたら何としてでも取り戻したいって思うでしょうよ。こいつはアホなのか。

「残り三個も残っているんだから、一個くらい分けてくれてもいいでしょうに」
「この男まだ言いますか! レイ……とと、奥様ぁ。今すぐに黒焦げにしちゃってもいいですかぁ?」

 ティティが物騒な言葉を放った。
 怒りでなのか、彼女の赤い髪の先が炎のように燃え上がっている。

「ここであなたが暴れるとリジーにも被害が及ぶわよ」
「そ、それは……困りますぅ」

 一応レイアも冷静らしい。わたしはほっとした。

「な、なによ。あなた黄金竜にリジーなんて呼ばれちゃって。しかも、その子……炎の精霊じゃない。ど、どうしてあなたみたいな人が……」

 フローレンスが一連のやり取りを見てどこか悔しそうな声を出す。

「とにかく、卵を返しなさい。黄金竜はあなたたちが考える以上に愛情深いの。卵一個だろうと全力で取り返しに来るわ」

 レイアはそう言って再び魔力を体外に放ち始める。
 ぴりりと大きな魔法の波動を感じる。お偉いさんたちが「おお……」とか「うわ」とか声を出す。室内の物が振動を始めた。

 ここに居るのは全員が魔法使い。レイアの見た目からは想像もつかない魔力の大きさにそれぞれが事の重大さに初めて気が付いたよう。

「で、でも……」

 フローレンスは不服そうに眉を寄せる。
 スーパー怒っているレイアを前に、ある意味すごいなとわたしは彼女の神経の太さにちょっとだけ感心した。

「さあ、早く!」

 レイアが一括する。
 フローレンスが一歩後ずさる。

 彼女はレイアとわたしとティティを順番に見ていった。

「せっかく手に入れた竜の至宝。一つくらい譲ってくれてもよいでしょう。きちんと僕が卵を孵して見せますよ」
 アレックスはまだあきらめきれないらしい。

「人間が竜の卵を孵せるわけがないでしょう! 何を世迷言を」
「ここでは無理ですが、白亜の塔でなら。勝算はあります」

 アレックスは竜の卵を孵す条件をある程度は知っているのかもしれない。
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