悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
 やわらかな風がわたしの体を優しく撫でる。わたしは恐る恐る瞳を開いた。

 たぶん、ドルムントが助けてくれたんだと思う。上の方で「リジー様ぁぁ」という彼の声が聞こえた。

 わたしはほぅっと息を吐いた。
 風はゆっくりとわたしを地上へと運んでくれた。

 これでようやく一安心、と思ったら、誰かに体を支えられて、とんっと足から地面に到着。
 わたしはようやく自分の日本の足で地面に着地。

 ああ地に足の着くことがこんなにも素晴らしいなんて。

「大丈夫か?」
「え、だだだ誰? あなた」

 わたしの着地を手助けしてくれたのは茶金髪に青灰色の瞳を持った、わたしよりいくらか年上なだけの青年。

 わたしはまじまじと青年を見つめた。

 森を歩くにしては、ずいぶんと立派な身なりだ。騎士装束だが、あたりに馬はいない。一応体験はしているものの、体の線は騎士にしては細い方。どちらかというと王宮の近衛騎士をしていると言われたほうがしっくりきそうな雰囲気をしている。

 にしても、どうして人間が竜の領域の中に。ていうか、ここってすでに人間の国だったりする? 彼はシュタインハルツの人間なのかな。

「その言葉はそっくりきみにお返ししたいけど。空から悲鳴やらが聞こえてきたら魔法の気配がして、女の子がゆっくり降りてきたから」
「あー……あはは」

 まさか黄金竜の子供たちのおもちゃになっていましたとは思うまい。
 どこまで正直に言えばいいのかな。目の前の人が誰かもわからないのに。
 二人はしばし黙り込む。

「あああああリジー様!」

 わたしが次何を話そうか迷っているところに血相を変えたドルムントが降下してきた。

「大丈夫でしたか? お怪我はしていませんか? ほんっとうに申し訳ございません。私が付いていながら」

 泣きそうな声でわたしの体のあちこちを見分し始めるドルムント。

「たぶん大丈夫な、はず……? どこもけがはしていないよ。……超怖かったけど」
 けがはしていないが恐怖体験はした。落下経験なんて一度で十分だ。
「この人が、ちょっと手助けしてくれたの」

 わたしの声にドルムントが顔を上げる。

 青年の方を見て、それから「あなたはレイル殿」と口にした。

「知り合い?」
 わたしはドルムントに尋ねた。
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