悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
「こぉら。二人とも! まずはわたしへの謝罪はないわけ?」

 ぴたりと口論が止んだ。
 二人はそろりとわたしの顔を見上げる。

「空からの探検は楽しかった?」
 最初に口を開いのはフェイル。

「んなわけ無いでしょう! おかげさまでものすごく怖かったわよ!」

「そんな」

 わたしの剣幕にフェイルがおののく。眉尻を下げるくらいなら最初っから嫌がることを無理強いするなっての。

「いいこと。さっきのあれはね、一緒に遊ぶとか探検とかじゃなくて単にあなたたちがわたしで遊びたかっただけ。わたしはちっとも楽しくなかったわ。あげくに、どっちがわたしを背中に乗せるかで喧嘩とか。わたしの意見は聞かないの?」

「えっと。リジーはファーナの方がよかったってこと?」
「どっちもごめんよ!」

 フェイルの言葉にわたしは叫んだ。

「そうですよ、お二人とも少しはリジー様をいたわってください。人は竜のお二方よりもずっとか弱いのですよ。私たち精霊よりももっとずっとか弱いのです」

「ドルムントが魔法を使ってくれなかったらもっと早くにわたし振り落とされていたんだからね! そうしたら落ちて死んじゃうんだからっ!」

 てっきり楽しんでくれたはず、と信じ切っていた二人はわたしの剣幕に肩を落とし始める。

「わたしはとっても怖かったわ。あなたたちは楽しかったかもしれないけれどね。背中に誰かを乗せて飛ぶっていうのはね、その人の命を預かっているってことなのよ。この意味、わかっているの?」

「で、でも……落ちても魔法で」
 フェイルが小さな声で反論する。
「ドルムントがいたからなんとかなったんでしょう」

「そうですよ。お二人ともびっくりして魔法どころじゃなかったでしょう」

「とにかく、面白半分でああいう危険な遊びにわたしを、いえ他の人を安易に巻き込んでは駄目」

 わたしは二人の目を見て怖い顔をつくる。ここでしっかりと言い聞かせておかないと。

「リジー……怖かった?」
「当たり前でしょう」

 ファーナの問いにわたしは即答する。
 二人はその場で下を向く。

「……ごめんなさい」
「……なさい」

 しばらくして二人は小さな声でわたしに謝った。

「ちゃんとごめんなさいできる子は、わたし好きよ」

 わたしは二人をきゅっと抱きしめた。
 もうしないでね、という念を思い切り込めながら。
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