悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
「わたくしが産んだ卵は二つだった。わたくしは絶望したわ。もしかしたらこの二つの卵は、孵ることなく天に召されるのではないかって。とても情緒不安定になったの。あの人に、ミゼルに子供を与えてあげることができないって。けれど、わたくしの生んだ卵は二つとも孵ったわ。孵化してもそこから無事に育て上げることも難しくてね。幼い竜に親はつききりになるのよ」

 なんとか孵化した赤ちゃん竜の子育てにレイアとミゼルは奔走した。それこそ目を離したすきに亡くなってしまうかもしれない、と。魔力の安定しない赤ちゃん竜はふとしたことですぐに息を引き取るのだとか。

「この三十年は本当に大変だったけれど、奇跡のような時間でもあったわね。無事に二人とも育ったのだもの」

 レイアは頬に手を添え、愛おしそうにレイルと遊ぶフェイルとファーナを眺める。

「あれくらいまで育てばもう心配はいらないわ。けれど、元気に育った分最近はやんちゃ盛りになってきて。わたくしももっと毅然とした態度を取らないとっていうのは分かってはいるのだけれど、死地の境を彷徨う子供たちの面倒を見てきたから、なかなか厳しい態度にも出られなくて」

 子育てって難しいわね、とレイアはため息をついた。

 美人が項垂れると庇護欲が湧いてしまう。明らかに年上なのはわかっているのに、なんていうか胸の奥がきゅんとなる。

 初めての子育てって確かに試行錯誤の連続だよね。
 ってわたし前世でも今世でも子供産んだことないから分からないけどさ。甥と姪がいたから、なんとなく親の大変さは分かると思う。

「森に住まう精霊(もの)たちに迷惑をかけているのも分かってはいるのよ。実際に苦情も来ているし。叱るにも、どこまで叱っていいのか、これって折檻になるのかしらとか、もう考え始めるとぐるぐるしてきちゃって。そんな時にあなたが現れたのよ」

「はあ……」

 そんなキラキラした目で見られても。
 わたしは生返事をした。

「子供たちは狭い世界で暮らしてきたでしょう。人間の女性と触れ合うことで、学ぶことも多いと思うの。改めてお願いをするわ。わたくしの子育てを手伝ってちょうだい。もちろんお礼はするわ。何不自由ない生活を保障するから。お願いよ。子供たちの躾を手伝ってちょうだい」

 そう言ってレイアはがばっと頭を下げた。
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