悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
 ついでに男の子のほうの背中の布が破れた。わたしが彼の方に視線を向けると、男の子は「あ、羽が出ちゃった」とばつが悪そうに笑った。

「あ、あなたたち……何者?」

 目の前の子供たちはどう考えても人間ではない。
 この世界は魔法の世界なんだから、色々なことが起こり得る。なにせ魔法の世界だし。わたし自身魔法学校に在籍をしていて魔法の勉強していたわけだし。

 この世界で培った知識と経験が告げてくる。
 目の前のこどもたちの正体を。

「えへへ~。わたしたち黄金竜だよぉ~」

 ぼんっと音を立てて人間の姿から一転、本来の姿に戻ったでっかいトカゲもとい竜は得意気な声を出した。

 わたしを目を大きく見開いた。
 死んだふりをして起きてみたら竜のこどもたちが目の前にいました。

 これいかに?

◇◆◇

 わたしはどうやら竜の子供たちに拾われたようで。

「ごめんなさいね。この子たち、はやくあなたが起きないかなって、ずっとそわそわしていたの」

 うふふ、と頬に手を添えて微笑むのは金髪に菫色の瞳をした麗しいご婦人。見た目年齢は二十代半ばあたり。優しそうな、垂れ目をした美人母は最初こそ竜の姿で現れたがすぐに人型に変化した。そうしたらやたらと麗しい女性が現れた。人間と変わらない見た目だが、瞳の瞳孔が人間よりも縦長でわたしは、あ、これ爬虫類みたい、とどうでもいいことを思った。

 そのご婦人がわたしの額に手のひらを当てる。ひんやりとしていて心地よい。

「ね、あなたお水飲む? それとも何か食べた方がいいのかしら」

 起きあがったわたしは洞窟の奥へと案内された。洞窟の奥にはなぜだか人間用の応接セットがちんまりと置かれてあった。奥に行くと、一応床も壁も平らに均されていて、模様らしきものが所々掘られている。明り取りの窓が無いのに問題なく周囲の様子が分かるのはそこかしこに魔法で作られたひかりの球が浮いているから。

 広い空間に人間用の、それもどこかのお屋敷にあるような立派なソファセット一式が置かれているって、違和感しかない。もしくはドラキュラ城に招かれた人の気分てこんななのかもしれない。あいにくと、このゲームの世界にドラキュラは登場しないはずだけど。

 座り心地の良い椅子へと誘われたわたしは腰を落ち着かせて改めて目の前の美女を眺める。

「え、ええと。喉は乾いているような……?」
< 8 / 165 >

この作品をシェア

pagetop