君と私で、恋になるまで
「…こんな食べられないよ。」
その扉を開いた瞬間、ふ、とすぐ近くの空気だけを揺らすような小さな笑みが溢れた。
お菓子だけではなく、フルーツやゼリー、後は。
「…何で、塩辛も増えてるの。」
自分で買ったパックの隣に並んで鎮座するそれに、思わず突っ込んでしまった。
あんだけ文句言ってきたのに、自分もチョイス充分おっさんじゃん。
賄賂は、想像以上に豪華だった。
"ちゃんとお前が頑張ってるの見てるから、俺と、仲直りして。"
そう、言ってくれた。
あの男の行動にも言動にも、私は振り回されて、翻弄され続けているけど。
自分の出来るところまで、仕事頑張ってみよう。
私が頑張る理由なんて、とても単純だから。
男が残した賄賂を眺めているとまたぽろっと涙が出てきた。
胸が焦がれて焦がれて、涙腺を刺激されるなんて、
恋そのものだと思う。
あの心地よい優しさに初めて触れた時から、それは増長していくばかりで。
仕事が落ち着いたら、もう1度瀬尾にチャットを送ろう。
結果がどうなっても。
素直に、ちゃんと、気持ちを伝えよう。
少しぬるくなった冷えピタに触れながら、そう決意した。