君と私で、恋になるまで





瀬尾の"下手"という表現は本当にその通りだ。




負担をかけたく無い、でもいつも会いたい。

同じ想いを抱えてるくせに、
上手くそれを伝えられなかった。



「……私も会いたかったよ、」

「知ってる。」

「なに!!」


「島谷が、"会いた過ぎて死にそう"って言ってたって教えてくれた。」

「そ、そこまでは言ってない…」


あの女は、なんとも告げ口が早い。

顔に当然のように熱が集まっていく私を見て、「ふうん、残念。」と笑う男は、本当になんなんだろう。

ヘタレなのかそうじゃ無いのか、もうずっとドキドキしてしまうから、はっきりして欲しい。




『世の中、"彼女の特権"というものが存在します。』



ふと、今日のランチの時の亜子の言葉を思い出す。


特権は、こういう時に使っても良いのだろうか。




「……瀬尾、例えばしんどい日は、全然断ってくれても良いから。

会いたい時は、連絡しても良い?」


恐る恐る、その表現がぴったりな臆病な声色の言葉に、目の前の気怠い男はゆっくりと優しく、穏やかな夜風に呼応するように表情を解す。



「いつでも良いよ。」

そうしていつもの大好きなロートーンボイスで包んでくれた。



< 211 / 314 >

この作品をシェア

pagetop