君と私で、恋になるまで
「決めて無いわけ?」
「……え、プランとかちゃんと決めるもの?」
なんせ、私は学生以来、久しぶりの恋に浮かれてしまっているヘタレな女で、"社会人のデート"というものが何をするのか、いまいちピンと来ない。
「場所くらい聞くでしょ普通?だって、どーすんの?」
「……何が?」
「朝会って、今から山登りしますとか言われたら。」
「社会人のデートってそんなハードなの!?」
あの気怠い様相に、そんなことを言われる可能性があるのか。社会人、なんて大変なんだ。
「まあそれは極端だけどさあ。
色々あるじゃない。
甘い系の服で攻めるとか、ちょっとカジュアルに抜け感出すとか。
デートの場所によって、雰囲気変えるでしょ?」
「……そうなんですか…?」
私はお味噌汁の器を持ったまま、目の前の教官の話に耳を傾けるしか出来ない。
当然のように確認されたその考えが全く無かった私はただ、目を瞬いている。
「つか日程だけ決めて特に詳細聞かないの凄くない?
言って来ないのもやばいけど。あいつ童貞なの?」
「………」
今日も今日とて、酷い言われようだ。
"デートだ……!"
その決定事項に浮かれて、特に何もその後尋ねようとしなかった自分の恋愛レベルを知った気がした。
絶対この鬼教官には言えない。
黙ったまま、話を流そうと小鉢の中の浅漬けを箸でつまもうとした瞬間、
「休みの日も会えるの嬉しいなあ〜で、完結してたんでしょどーせ。」
「………」
「さすが天然記念物。」
この女は本当に鋭い。
恐らく顔の赤い私に、綺麗に微笑んで
「今日、服選び付き合ってあげても良いけど?」
と言って彼女は煮魚のほぐした身を1つ、口に含んだ。
「…お、お願いします。」
「その前に、童貞にどこ行く気なのか聞いといて。」
「……」
例えば私が雰囲気をガラリと変えたら、
あの気怠い男は、ちょっとでも喜んでくれたりするのかな。