君と私で、恋になるまで

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異動になって、数週間。

「…い、忙しい。」

「それは大変。」

「……他人事。」

「だって他人事だもの。」

さらっとそのまま、湯飲みに口づける女を渋い顔で見つめても、全く気にせず「あーおいし。」と呟かれてしまった。


「……覚悟したつもりだったんだけどな。」

「企画部なんてそりゃ忙しいわよ。」

「だよね、なめてた…、」

「馬鹿ね~」と口では言いながら、クスクス笑って私のお皿に、定食のエビフライを一尾乗せてくる亜子の素直じゃない優しさに、力無く笑う。



社会人4年目の夏。

私は発令も無事に出て、営業部から企画部へと異動をした。

営業部での引継ぎは最後までバタバタで、新入社員の梨木ちゃんにも相当迷惑をかけてしまったけれど、
「頑張ります!!」と肩に力を入れながらもしっかりそう言ってくれた彼女のことは、異動してからも出来る限りサポートしたい。


異動先の企画部は、チームで取り組む案件なら当然営業部との関わりはあるし、今までの知識含めて、営業部にも役に立つ仕事ができたら、と考えていたのだけど。


"桝川さん!今日はこの案件とこの案件、詰めるから14時から会議室2ね~!"

"今日午後のクライアントとのキックオフ、やっぱりちょっとコンセプトのことも確認するから、昨日の資料まとめてもらっていい!?"

 
「内勤の仕事増えて、むしろ亜子ともっと外ランチ行けるようになるかなあと思ってたんだけどな。」

「そうね、2週間ぶり?」

「亜子が足りない。」

「えー私は充分。」

「ツンデレめ。」


総務部の亜子とは、オフィスではもちろん毎日顔を合わせるけど、なんせ私が引継ぎを受ける立場になった今、身動きの取られない日が増えていた。






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