Dying music〜音楽を染め上げろ〜
「 Cyan!」
マスターが駆け寄ってきた。
「おい、あの演奏なんだ…。前と全然違う!すげえよ!」
「あり…がとうッ………ございます」
息がとぎれとぎれになりながら話す。これ、過呼吸になりかけている。苦しい。
「歌もすげえ。なんかこう…ビビッて心に来るような感じだったぞ!」
「よかった…です…ッ」
肩で息をしながらなんとか答える。手も震えて落ち着かない。
すみません…水飲ませてお願いだから…。
あ、あと…のど飴も…。
そうしないと死ぬ。
ハメ外しすぎた…
もう、キャパ超えそう。
よちよちと控室に戻る。倒れるように床に寝転び、そして、ゴクゴクと一気に500MLペットボトルの半分まで飲み干した。
ハァッ…ハァッ………ッハァ…
…まだ、手に感触が残っている。
こんな演奏をしたのは初めてかもしれない。いつもはバンドさんに合わせたり、客の反応を見ながら調節して、自分を抑えていた。今回は自分の感情任せの演奏だった。
ー…でも、めちゃくちゃ気持ちよかった。
気分的にハイになっていたんだと思う。
今の自分が出せる最大限の演奏、歌声。
俺ってノるとここまでできるんだ。
その時、コンコンとノックが鳴り、反射的に身体を起こした。
「お疲れ様。」
入ってきたのはシュート。ハイっとペットボトルを渡してくる。
「Cyan君すごいね。あのおっさんたち鎮めるなんてさ。面白くて笑っちゃった(笑)」
あのニコニコした笑顔のままストンと隣の椅子に座ってくる。この人、パーソナルスペースってもの知らないのかな?
「すみません、あまりにも収集つかなかったので。」
残り半分を飲み干すとシュートが聞いてきた。
「どうだった?ここで歌ってみて。」
「Midnightとはまた違う感じでした。こっちは観客の感想がストレートに飛んでくるっていうか。」
「でもお客さんCyan君のこと気に入った
みたいだよ?さっきも次はいつ来るんだって聞かれたんだ。」
あのお客さんたちがねぇ。始まる前はあんなにディスってくれちゃってたのにさ。
「もしよかったらまた来て。そうだな…」
ー 「今度は一緒に歌うのはどう?」
……歌うってそういうこと?それともただの冗談?
まるでこちらを試しているかのような問いかけ。
「そういうのはマスター通して改めて連絡します。今日はありがとうございました。」
シュートは一瞬真顔になったが、すぐにいつもの顔に戻し、「そっか。」と、それだけ言って部屋を出て行った。
今日は強く弾きすぎた。Midnight行って手入れしてから帰ろう。あ、弦も変えようかな。
本当に勉強になった。自分を晒け出すってこういうことかと知ることができた。
ヤジには慣れないけれど、ストレートに感想飛んでくるのはアリかもしれない。自分のギアも上がるし。
ただ、この演奏方法はいつもより体力を使う。今回は歌いながらだったからなおさら。喉も2曲目の途中から限界だった。声量をキープし続ける体力がないんだな。
それと…。
「この演奏は、あいつらには見せられないな…。」
見たら多分、引かれる。
感情むき出しで弾いているし、難しいアレンジ入れすぎている。怖くて、気持ちの悪い演奏って思われる。絶対、輪を乱す演奏になってしまうから。