百花妖乱恋草子 ~宮中はうつくしあやし~
①主要キャラクターの説明

・さくら(女房名:佐倉):田舎暮らしの姫君。15歳のヒロイン。妖力を持つ者がおらず出世できない家系で唯一植物を操る力を持つ。色恋沙汰に興味が持てず男性に強い苦手意識を持ち、宮中へ出仕したくないという気持ちから自分の力を隠していた。さくらのような植物を操る力は宮中において重用される妖力のひとつで、上流貴族の娯楽や慰めから位の高い者は祭事にも関わった。特定の植物を操る者が多い中でさくらは操る力が弱い代わりに様々な植物を操ることができ、しかも誰よりも美しい花を生み出すことができた。その美しい妖力を見出した皇子はさくらに強く関心があり、いずれ自分の手元に置きたいと考えているものの、さくらの過度なコミュ障や男性への苦手意識からなかなか歩み寄ることができずにいる。しかしさくらは素直な性格と目立つ力から宮中のトラブルによく巻き込まれ、その過程で皇子と関わり少しずつ気持ちを交わそうと努力する姿勢を見せるようになる。成長すると美しい女性になり妖力にも磨きがかかり、多くの男性から想いを寄せられるようになると共に皇子の魅力に気づかされその気持ちは恋へと変わっていく。後に春宮妃となる婚約をする。

・晴風(せいらん):春宮(東宮)の少年。17歳。長男でないものの強い妖力を持ち春宮に選ばれ、皆からは「はるのみや」と呼ばれている。端整な顔立ちで風流を解するが性格は年齢より幼く、力に惹かれたさくらを自分のものにするため強引に関係を進めようとすることもある。幼いころから春宮という立場に置かれる彼の我儘は愛情を求めているためであり本人に悪意はなく、それゆえに愛嬌があり面倒くさくもある。せいらんは風の力で小さな嵐からそよ風まで操ることが可能で、武芸や管楽にも秀でている。さくらへの「面白い人間を自分のものにしたい」という気持ちは、次第に「一対の男女として愛し合う関係になりたい」という想いへと変わっていく。さくらが美しい女性へ成長し兄弟たちからも狙われるようになるとより強く彼女のことを意識し、さくらを強引に娶ろうとする兄弟から彼女を助け上げると想いを伝えてそれを身体へ刻み込むように唇を奪う。その頃には彼もひとりの男性として成熟しており、さくらを世話役の女官に取り立てるまでそれ以上の関係には絶対に踏み込まなかった。ある夜にさくらと結ばれると婚約することを決める。

・あかり(女房名:灯里):さくらの幼馴染でもある侍女。14歳。さくらの家に仕える妖力使いのひとりで、小さな炎を扱うことができる。さくらの力を唯一知っており、彼女の遊んだ花を燃やして証拠を隠滅していた。さくらが晴風に見いだされると共に出仕することを決め、夜に灯りをつけて回り朝に灯りを消して回る仕事に就く。女官たちがこっそり情報交換を行う夜に仕事をしているため噂に精通しており、さくらに様々な情報を提供してくれる。常にさくらを一番に想うしっかり者であるが、さくらを想いすぎるあまり自分含めそれ以外を疎かにすることがある。さくらにとっては最も信頼できる存在であり、彼女は頼りがいのあるサポーターである。しかしまたあかりにも「主人に一生仕えることは本当の幸せなのか」を考えるきっかけがあり、彼女にとって本当にやりたいことを見つけ出すのは大きな転機であり彼女の成長でもある。

・わらび(女房名:蕨):さくらと同室の少女。18歳。祭事で活躍する者が多い植物を操る一族出身で、蕨を生やす自身の妖力をコンプレックスに思っている。実は里では結婚していたものの夫が美しい力を持つ女性と浮気したことを原因に離婚しており、それがトラウマになっている。一族からの圧と嫉妬で初めは才能を持つさくらにつらく当たるが、さくらの優しさに触れて妹のように可愛がるようになる。妖力に恵まれないものの努力家で真面目な性格は信頼されており、男性から多くの文をもらう知性と美貌を持つ。さくらにとっては女性としても職場の仲間としても先輩であり、わらびの行動がさくらの成長のきっかけになることも多い。わらびの恋と結婚はさくらと晴風が結ばれることにも繋がる。

・陽永(ひなが):せいらんの乳母兄弟にあたるお守役。18歳。妖力を持たないものの腕っぷしを買われ検非違使としても働いている。せいらんの師でもある彼は武芸に関しては宮中一の才能を見せる。頭の固い堅物であり、それゆえに信頼されると同時にからかわれることも多い。せいらんに生涯の忠誠を誓っており彼のためなら手段を選ばないため、さくらにとってはあまり良い思い出はない。わらびと幼いころから面識があり彼女はひながを腐れた縁として見ているが、彼にとってわらびは憧れの存在で密かに想い続けている。後に蛍を操る力に目覚め、蟲の妖力の存在が明らかになる。またさくらを貶めようとする事件でわらびが巻き込まれると彼女を助け、それをきっかけにわらびと結ばれることになる。

・静霊天皇(せいれいてんのう):晴風の従兄にあたる天皇。23歳。病弱であり子供はおらず、一族で最も妖力の優れた晴風を春宮とした。晴風と異なり風を発生させることはできないが空気に色や味を感じ取ることができ、宮中における水面下の思惑や妖の気配を感じて常に神経を張り巡らせている。信頼できる人間か否かよく勘ぐる一方で血筋や妖力に固執してしまうこともある。正妻のことになると頭が上がらず、また彼女のためとなると周りが見えなくなってしまう。

・八百合(やゆり):静霊天皇の正妻。14歳。関白と北の方の愛娘であり純粋無垢な美少女で、静霊天皇にとっては心安らぐ存在。さくらに関心があり、八百合のお気に入りであるために静霊天皇はさくらを邪険に扱えずにいる。北の方の血を引く八百合は狐の耳と尾を持っており、頭に烏帽子のようなものを被って隠しているため「烏帽子のひいさま」と呼ばれる。妖力を持たず家柄だけで正妻になったと思われているが、白い彼岸花の力を持つ。北の方の正体がばれると一時的に正妻の座を降り、妖と人間の間を取り持つために奔走することになる。

・北の方(妖怪名:曼珠沙華):天上の花とされる彼岸花の力を持つ女性。年齢不詳。関白の妾でありながら美しい容貌と妖力から正妻よりも愛され、また優れた女官として北の部屋に住まう。関白がある館に住む彼女を見出したため北の方の素性は知られていないが、正体は狐の一族である。一族は妖を邪険に扱う人間を強く憎んでおり、彼岸花の毒を操る彼女は一族の復讐のために送り込まれた刺客だったのだった。北の方自身は関白と心から愛し合っており性格も穏やかであるが、自身の立場を諦めており皇族たちを殺して自分も命を絶とうと考えている。

・みさ(女房名:未草):水の妖力を持つ一族出身の女性。25歳。静霊天皇と同様直接水を操るわけではなく、湿気や空気中の水から天気を当てる能力を持つ。女房の中でも機転が利いて面倒見の良いお姉さんとして慕われており、男性を口と知識のみで打ち負かすことも多い。さくらとわらびがさくらの力を示す機会を伺う際に協力を仰ぎ、彼女の歌に合わせてさくらは春の花々を美しく咲き乱らせた。自身に対して消極的なこともあるが実力は確かな女官で、ユーモアもあるため北の方の女房でありながら八百合に呼び出されていることも多い。八百合が北の方の故郷へ向かうことになると自ら世話役を引き受け同伴する。
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