泣きたい訳じゃない。
波乱の予感
現実は甘くなかった。
感傷に浸るどころか、仕事に追われ疲弊する毎日だ。

バンクーバーのサポート担当を引き受けたものの、他の仕事が減る訳じゃなかった。

仕事中の拓海は平気で難題を押し付けてくる。
ロスの頃の仕事を思い出すけど、今回の拓海の気迫はそれ以上かもしれない。

私の唯一のプライベートな時間は、週末のテレビ電話だけれど、相手が拓海なだけに仕事の悩みは話せない。

週末の拓海は仕事の時とは違って、私を楽しませようと一週間分の撮り溜めたバンクーバーの街の風景や自撮りの写真を見せながら話をしてくれる。

その中には懐かしい思い出の場所もあって、私はいつか拓海と二人で訪れる時を想像している。

「寂しい」も「会いたい」も言えない。

電話を始める前はドキドキするけど、電話を切った瞬間、寂しさが倍増する。

これが私の唯一の楽しみで癒しだから、余計に複雑だ。

だから、仕事の忙しさに救われているのかもしれない。
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