泣きたい訳じゃない。
そんな拓海からの難題メールが送られて来た。

「最近、バンクーバーでシェアハウスを展開している日本企業があるらしいから、調べて欲しい。」

この課題自体を解決するのは、私にとっては、とても簡単なことだった。

何故なら、私はその人物をよく知っているからだ。ただ、その人物を拓海に紹介するべきか、朝からずっと悩んでいる。

その人物とは、私の兄「高田雅治 35歳」だから。

私と名前が違うのは、三年前に日本のホテルチェーンを経営する高田ホテルズの長女と結婚して婿養子になったからだ。

元々、ホテル業界で働いていた兄は、今のお嫁さんになる真美さんと知り合い、付き合っていた。
二人が結婚を決めた時、高田家の出した条件は「婿養子になって高田ホテルズを継ぐこと」だった。

うちの両親は、複雑だったと思う。
兄も一応、渋谷家の長男だから。でも、息子の幸せはに変えられるものはないと、二人を祝福した。

今は兄は「葵ちゃん」という可愛い娘も産まれて、幸せな家庭を築いている。
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