泣きたい訳じゃない。
気が付くと、最近は莉奈のことばかり考えてしまう。カナダに来る前は、莉奈が寂しがることを心配してたけど、実際、寂しがっているのは俺の方だ。

今頃、莉奈はロスに向かう準備をしているはずだ。バンクーバーからロスは飛行機で3時間程だから会いに行けない距離じゃない。そんな事を考えながら歩いていると、デュアルレジデンスのホテルの一角にある高田さんのオフィスの前に着いていた。

頭の中を切り替えなければ。
今日は、事業を次のステップに進めるためにも、必ず契約書にサインをしてもらいたい。

俺は背筋を伸ばして、ホテルの玄関へと入っていった。

「Hello!」

フロントデスクから声が掛けられたので、俺は今日のアポイントを伝えた。
すると、直ぐに客室がある方とは反対側にある奥の部屋に通された。
既にフロントにもアポイントが通っていたようだ。

「ここでお待ちください。」

ログハウスをイメージしたような木目を基調としたその部屋は商談をするには柔らか過ぎるイメージだけど、居心地の良さを感じられる。

客室もこんな風になっているんだろう。
ロングステイにはピッタリな部屋だ。

「青柳さん、お待たせしました。」

高田さんが部屋に入って来た。
男女の違いがあるから、そっくりとまでは言えないが、凛とした立ち姿やその横顔に莉奈が重なった。

「初めまして、高田様。この度はお忙しい中、お時間を頂きましてありがとうございます。」

「初めまして。青柳さん、堅苦しいのは止めませんか。ここは日本でもないですし。」

高田さんがふっと力を抜いた笑顔を見せた。

「はい、それでは。高田さん、早速ですがよろしくお願いします。」
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