泣きたい訳じゃない。
まだ慣れない事も多くて、緊張と不安の一週間も今日で終わりだ。

小さなミスはあったものの、周りのフォローもあって何とか業務も回せるようになってきた。

「リナの仕事は正確で素晴らしいわ。ずっとここに居て欲しいぐらいよ。」

ケイトは私より一回り歳上で、子供が二人いるお母さんであり、私にとっては、頼りになるお姉さん的存在だ。
来週末は彼女の家のホームパーティーにもオフィスメンバー皆んなで招待されている。

課長も週の半ばに来て、今後の営業方針や谷山さんの仕事のカバーなどについて打ち合わせをした結果、特に、問題もないとの事で翌日には、別拠点に移動して行った。

午後からの仕事がひと段落した時、北村さんが声を掛けてくれた。

「渋谷さん、今日はもう帰る時間でしょ。飛行機に間に合わないと、僕が怒られちゃうからさ。」

私は4時にオフィスを出れば間に合うと思っていたのに、まだ3時前だった。

「ロスの渋滞を舐めちゃダメだよ。夕方になると、車が前に進むのが奇跡に思える時もあるぐらいだからね。」

「ありがとうございます。では、今日は失礼させていただきますね。」

私が帰る準備をしていると、ケイトが椅子ごと近寄って来る。

「今から、タクミに会うためにカナダに行くんでしょ。スイートな週末を過ごしてね。そうだ、来週のホームパーティーには、タクミも招待しておいて。私達も久しぶりにタクミに会いたいわ。」

「分かった、言ってみるね。ただ、先週も来たから、そんなに来れるか分からないけど。」

「リナの言うことなら、タクミは絶対に聞くわよ。それこそ、あなた一人をホームパーティーに行かせるなんて、彼にとっては拷問みたいなものなんだから。」

ケイトは楽しそうにWinkして見せた。

「楽しい週末を。」

私はオフィスを出て、空港に向かった。
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