訳アリなの、ごめんなさい
スローモーションのように、彼女の白い首に鋭利な刃物が滑っていく。

そして彼女は目を閉じて、どこか勝ち誇ったように笑っているようにすら見えた。


戸口にいたのだろうか、直ぐ目の前に現れた大男を、ヴィンが素早く蹴り飛ばした。

俺はそのまま彼女に近づくと、彼女に跨ったまま唖然としている男の腹を蹴り飛ばしてそこを退かせた。


俺たちの後を追ってきた同僚達にヴィンが指示を出すのがやけに遠くに聞こえた。


目の前に倒れているアリシアしか俺の世界にはいなかった。

膝をついて、彼女の体を抱き上げると。首から流れる血を止めるために、布を当てる。出血が多い。

当ててみてそれが彼女の胸元の服を切り取ったものであることに気づいた。

「アーシャ!」彼女の名前を呼ぶと、うっすらと、本当に少しだけ彼女の瞳が開いた。

ごめんなさい

あいしてるわ


ほとんど口の動きだけだった。しかしなんとなくだが、耳にも届いた。


そんな別れのような言葉は聞きたくない。
ギュッと、彼女の首の傷を抑える手に力を入れる。


「俺じゃあねぇからな!アーシャが勝手に自分で切ったんだからな!」

不意に縛り上げられながら喚くトランの声で現実に戻された。


着ていた上着を脱いで、彼女にかける。そして大男が片付いて寄ってきたヴィンに、アリシアをあずける。


トランまでの距離は3歩ほど、ガツガツと近づいて、その腹を蹴り上げる。

「グェ!ゲホッ」

体を丸めて咳き込む奴の頭を靴で踏みつけ、剣を抜く。

殺してやる

こいつだけは許さない

しかしそれは叶わなくて、すぐに同僚達が俺を奴から引き剥がした。

早まるな、お前が罪人になってどうする

そんな言葉をかけられた気がしたが、アリシアが居なくなってしまうのならそんなことはどうでもよかった。


仲間により、彼女の隣に引き戻されて

傷口を押さえながら、どんどん顔色を失っていく彼女の身体を抱きしめた、ただただそうする事しかできなかった。
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