訳アリなの、ごめんなさい
「少し心の整理をつけたいので、ご入室を控えていただくようにと仰ってますが」



リラの言葉に俺はやはりな、と笑って首を振る。



「それは聞けない」

「ですが、、、」

不安そうに眉を下げる彼女に、安心させるように笑う。



「今のアーシャは1人にしておくと、ろくな事を考えない。最悪、命を断つかもしれない。
なるべく早くきちんと話すことが重要だ」

目の前の侍女は、事の詳細を知らない。
だからこそ、反論をすることはできないのはわかっていた。


「承知いたしました」

そう礼をとって部屋を出て行った。




「はぁ、、、リラから聞いたでしょうに、、、」

寝室の彼女のもとに戻れば、盛大なため息とともに、不満そうな視線が帰ってきた。

「今の君の思考状況はまだ混乱していて、正常じゃあないからね。それに、まだ君も聞きたい事はあるはずだろう?」

そう言って彼女の手を取ると。彼女はふいっと視線を逸らせたものの。手を振り払うことはしなかった。

「私の事、軽蔑したでしょう?」

ポツリとつぶやいた彼女の言葉は、予想できた言葉だった。

そう、彼女の側についてから、彼女が何故、死のうとしたのかをずっと考えていた。

彼女が、まだなにかを隠している事を彼女の言動の端端で自分は薄々感じていた。しかしそれが自分の予想以上に残酷な事だった。
きっとこの事件が起こる前に、それに自分が着目して問いただしても、彼女は口を割ることは無かったと思う。

一人でずっと、彼らの影に怯えながら、抱えていくつもりだったのだろう。

癒える傷などではなかった。


なぜなら、彼女は俺に知られる事が何より怖かったはずだ。

自分の側にいる事で、彼女の苦しみは続いていたのだ。

そしてこんな形で、その苦しみが露見してしまった。

乗り込んだ時の彼女は、あの男に組み敷かれ、肌を晒していた。これ以上は、この男に与えないと、彼女の意地がせめてもの抵抗としてあのような行動に出たのだろうとおもっていた。

しかし、今の言葉を聞くと、彼女のあの行動の奥にあった気持ちを知る事ができたような気がした。

しっかりと彼女の手を握り直す。
本当ならばすぐに胸の中に彼女を収めたいが、きっと抵抗されるだろう。


「軽蔑なんてしないよ。何でそんな事をしなきゃならないんだ?」

言い聞かせるように問えば、彼女の瞳からはらりと涙が溢れた。


「あなたに重大な事を黙っていたわ。とても穢らわしい事を、、、。黙ったまま結婚して、そして貴方に抱かれたわ。軽蔑されて、捨てられても仕方ないと思っている」



はらはらと彼女の瞳から涙が落ちていく。

その姿すらも、儚くて美しい。穢らわしいなんて事があるはずがない。


彼女の頬に触れて、涙を拭う。

「なんとなく、アーシャが何かを隠している事は分かっていたんだ。」

パチリと彼女が目を瞬いて視線を上げた。
もう一度彼女の頬を撫でる。

「でも、その傷すら俺と一緒にいるうちに癒して行ってくれたらと思っていたんだ。いずれ話してくれるならば、一緒にその傷を抱えていけばいいなんて、思っていた。」

君の苦しみを分かっていなかったんだ、ごめん。

そう言うと、彼女はふるふると首を振った。

「貴方は悪くないわ、、私が、、」

そう言った後、彼女は嗚咽をこらえるように、唇を引き結んだ。

その身体を引き寄せて、胸に押しつけるように抱きしめる。

「どんな事があっても、君を嫌いになんてなれないし、手放す事なんて考えられない。もし君が俺の側にいなくなると言うのなら、俺は君も道連れに死ぬかもしれない。この数日、君の横にいながらずっとそんな事を考えていた」

ぴくりと彼女の肩が震えたが、それでも抵抗する様子はないから、そのまま彼女の顳顬に口付ける。


「もしまだ君が死にたいと思うなら、止めない。でも俺も一緒に逝く。」
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