燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~

「あぁ……えっと、あ、ありがとうございます。それより、鈴木さん、術後の痛みはどうですか?」
「すっかりよくなりました。ありがとうございます」
「それは良かったです」
「先生、絶対読んでくださいよ」

 帰り際、強引に手の中に本を押し込んで、鈴木さんは帰っていく。
 自分の手の中にある付箋で太くなった漫画を見て、ふう、とため息を一つ。


「最近、やけにこういうの多いな……なんなんだ」

 不思議でしかたない。
 その時、看護師の向井さんが、

「そういえば、さっき高野さんが『すっぽん』持ってきてましたよ」
「……すっぽん、って……なんのために」

 思わずつぶやくと、向井さんだけでなく、裏にいた数人の看護師が吹き出した。

「え、なに?」
「いえ……」

 そう言いながらやっぱり笑ってる。
 まぁ、救急じゃないときの外科は比較的平和だ。

 そしてみんな最近、なんだか楽しそうでなによりだ。

< 252 / 350 >

この作品をシェア

pagetop