トライアングル 上

「さあ、次だ!」
亮輔の高く上がったサーブはサービスコートの奥深くに狙いを定めて落下する。
その打球の行方の真下に素早く回り込んだ祐介が身体全体を使って、
「フン!」
腕を思い切り振り、打ち返す。
ブン!という風斬り音と共にトーン!とコルクの音が響き渡る。





祐介の打球はコートを真っ直ぐ亮輔のコートの右端へ向け低い弧を描き勢いよく飛んでいく。
そこへ狙いを澄ましたかのように背中を見せながらバックハンドで回り込む亮輔。
「よっ!」
落ちてきた打球を切るように打ち返す。





ネット際、祐介の左足元に落下してくる打球。
「おっと」と言うように前のめりになりながらネット際に落ちる球を掬い上げる祐介。
祐介が打った球はとっさに相手が打ってきたとは逆方向へ打ち返していた。
体勢をくずしながら打ち返した打球を目で追う祐介。
しかし、打球の先にはすでに亮輔の姿。

思いっきり振りかぶり、
ふんわりとドロップ気味に上がった球をネット際まで攻めて来ていた亮輔が
真っ直ぐ腕を伸ばし、
打球が弧の頂点に達するや否や
祐介のいない空いたスペースへ向け
スマッシュ!





「『あれ?この光景どこかで、、、?』ここで祐介はすでに気づいている。」
スマッシュを打った亮輔はすぐに祐介に目線をやる。
「前の回でやられたんだ。すぐに体勢を構えてスマッシュに警戒している。」
祐介はすでに2、3歩下がり前回やられた着地点にドシっと構えている。
そう、亮輔はわざと、前回と同じ流れでフラッシュバックのような展開でスマッシュをした。
打球は祐介に向かい飛んでいく。
「しかし甘い!」
スマッシュを打った亮輔は祐介の打球に集中する。
「ガー!」
先程とはスマッシュの角度を少し変え、打球は祐介の胸元に食い込む。
苦しそうにスマッシュを打ち返した祐介の球はふんわりと優しくネットを超える。
それをネット際に構えていた亮輔がさらに
祐介の居る逆方向へ向け、
もう一度
「ほらよ!」
スマッシュ!!
ドシっと両足を、地につけ構えていた祐介は微動だにできず。
誰もいないコートに無情にも、コーン、コーンと音を立て落ちるシャトル。

「、、、亮輔選手3ポイント〜〜〜!」
あまりの綺麗な決まり方にスコアをめくるのが1テンポ遅れる女神。

圧倒的すぎる試合運び。
亮輔が不敵な笑みを浮かべる。
「バドミントンの勝ち方の基本2、『相手の長所をつぶす、短所を攻める』。」
つまり今回の場合はこうだ。
①→まず、前もってスマッシュを見せ警戒させる。
②→わざと同じような状況を作って思い出させる。
③→警戒して構える事でドッシリ足が地面につく。
④→地面にしっかりついた足はその後の動きが鈍る。
「祐介の長所。それは『動体視力』と『反射神経』。それで瞬時に球を追い身体が動く。」
これまでの戦いでもそれは実証されていた。
"跳び箱"で、とっさにヘッドスプリットをした祐介。
それはレースでもボーリングでもそうであったように
その場の状況を観察できる、いい"目"と、
それを行動に移せる"身体"。
それが伴って今までのミラクルを生んでいる。
しかし、今回、亮輔は祐介の"足"を止めることで
目で追えても身体が付いていかない状況を作った。
「見えているのに動けない。地獄だろう。」
「これでお前にもう、ミラクルはない!」
不敵な笑みのまま首を斜めに傾け、「これまでのお返し」
のように、恨みがこもった流して目で祐介を見る。
「まだまだこんなもんじゃない!!」
亮輔がシャトルを掬い上げた。


コツン!
「痛い!」
小学3年生の亮輔のおでこに黄色いプラスチックの球が
勢いよく当たる。
「おう!亮輔!すまんのう!」
赤と黒のラバーが両面に貼られた小さなラケットを持ち、
祐介が申し訳なさそうに掌を立てに『ごめん』のポーズをするを
「む〜〜!」
涙目の亮輔。スコアはすでに 4対11 と敗北を決している。


「『動体視力』と『反射神経』。この2つは、対2人用の競技では無類の強さを発揮する。」


バチーン!
「面あり!一本!!」
「〜〜〜!」
竹刀で叩かれた頭を痛そうに押さえ、悔しさを滲ませながら面を外したのは6年生の亮輔。
防具をつけたまま仁王立ちしているのはガタイの大きくなってきた祐介。


「卓球、剣道、テニス、、、。対2人用の競技で祐介に勝った事はない。」
「特にバドミントンに関しては、、、」


スパーン!
「、、、くっ!」
コン、、、コン、、、
手を伸ばしたラケットに届かず無情にもコートに落ちたシャトル。
「、、、。」
クラス全員が唖然として見つめるスコアは 21対18。
ラケットで肩を叩きながら立っているのは中学2年の勝者の祐介。
「くそっ!」
その反対コートで悔しがってるのはバドミントン部のエース。


「授業の場とはいえ、祐介がバドミントンで負けた所は見た事がない。」


スパーン!
祐介が打ったスマッシュ!
しかしネットギリギリにネットに並行に構えたラケット。
コーン!
完全に読んでいた亮輔は振りもせず、そのまま反射させるようにスマッシュを横へ受け流した。

"ワイパーショット"
ラケットを車のワイパーのように真横に動かす事で、
相手の打ってきた打球を鏡のように跳ね返す。

コン、、、コン。
ネット際に落ちたシャトル。

「亮輔選手10ポイント〜〜〜!!」
女神がめくったスコアはすでに 10対0 と大差を示している。

亮輔は笑みを浮かべ、優越感に浸る。
「しかし、、、いける!」
「どれだけ!お前を見てきたと思っている!」
そしてひたすら続く亮輔のサーブ権。
バドミントンはある意味無情だ。
勝った者が常に先手を打てる。サーブをひたすら打ち続けられる。
サーブが上手かったり、組み立てが上手い相手だと一方的な試合展開になる事も多い。
展開がものを言う競技なだけにハマれば抜け出せない。
もう何をやっても亮輔の領域(テリトリー)。
そんな事さえ感じさせた。

完全な敗北。両膝に手を置き低い姿勢で構え下をうつむく祐介。
相手は優越感でこちらを見ている。
そんな相手へ向け、顔を上げる祐介。
10対0という絶望的といえる状況。
しかし、
低い体勢のまま相手を見つめる祐介の目は死んでいない。
むしろ、その眼からは、、、
恐怖を感じてたじろんでしまうような威圧感のある強さがあった。

その祐介の瞳に少し後退る亮輔。

そんな亮輔に全く表情を変えず、無表情の祐介が言い放つ。
「ハンデはこんなもんでいいかのう、、、。」
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