トライアングル 上

際どいボールではあった。
しかし、この判定に、
「よく見ていたな。」
亮輔もすぐさま納得。
亮輔自身がストライクゾーンからギリギリ外れるように
狙って投げていた。
球威がそこまでない分、コントロールには自信があった。

足を下ろし、力を抜き構えを解く祐介。

亮輔も女神から返された球を
バシっと受け取り、
一度ぐるっと外野の方の校庭を見渡しながら、
肩を回し力を抜く。
「1ストライク、1ボールか。」
首をコキコキ回してながら曲げ、
ストレッチのように緊張で固まった部分を解す。
そうして頭と身体を少しリフレッシュさせて、
再びグローブを顔の前で構え、マウンド上からバッターボックスを見据える。
「落ち着いているじゃないか。」

ゴロゴロ、、、
暗雲が機嫌を損ねたような低い喉笛を鳴らす。

「なら、これはどうだ!」
亮輔がそれに呼応するように次の一手へ
再び両腕を高く上げた。

ギュッと構える祐介。

亮輔はいつもより早いモーションで
身体を大きく開き
重心をバッターへ向け
体重を乗せた球を
投げた。

放った球は、真っ直ぐ高い軌道で祐介へ向かってくる。
徐々に近づく球はどう見ても目線の高さ。
むしろ顔へ目がけてくる。

「!!」
構えていた祐介はとっさに仰け反り球を避けた。
スパーン!
勢いよくネットに到達した球。
その投球は
祐介の顔ギリギリ。
むしろ、避けていなければ直撃していた。
「、、、。」
驚き、転がる球を見つめる祐介。

<「すまんすまん!手が滑ったわ。」
そこへ悪びれもなく亮輔が言い放つ。
被った帽子を取りワシャワシャと髪をかき乱した後、
かぶり直し、
再び言い放つ。
「勝利条件は祐介のヒット。ファーボールはノーカウントだったよな。」
「じゃあデッドボールもノーカウントだな。」
女神に不敵な笑みで訴える。

「〜〜〜!!」
女神が困った顔で苦渋を飲む表情を浮かべる。

「わざと!」祐介が眉間にシワを寄せ、
鋭い眼光で亮輔を睨みつける。

亮輔は2人をあざ笑うようにもう一度不敵な笑みを返した。
「あ〜〜。ごめんごめん。そんなに怒るなって〜〜。以後気を付けま〜〜す。」
場が一気に一触即発な空気となる。

そんな2人に割って入るように
バタバタ手を振って怒りを表現しながら、
「そんな行為ばかりしたら強制的に負けにしますからね〜〜!!」
女神が球を亮輔へ向け投げた。

「フン!」
亮輔は鼻息で小馬鹿にするように答えると、
すぐさまグローブを顔の前で構え
両腕を高く上げる。

「!!」
バッターボックスに居た祐介はすぐさま構える。

「!!」
女神も急いでネットの裏に隠れる。

そのまま間髪入れないように
身体を大きく開き、
流れるように素早く
重心をバッターへ
体重を乗せた球を投げた。

投球は先程とは逆、バッターから離れた位置、
外角高めに飛んでいく。





祐介は左足を高く上げタイミングを計る。
しかし気が納まらないのか尚も眉間にシワを寄せる。

球の行方を追う亮輔。

その顔は先程の不敵な笑みから一転、真剣な面持ち。


そう!全て作戦。
わざと、デッドボールを思わせる球を投げ、わざと祐介を挑発した。
そして、投球のタイミングを早める事で
その怒りの感情を保たせ、ストライクを取ろうと考えた。
「ムカつくだろ〜?怒れ!それをぶつけてやれ!」
つまりは今の球は外角高めにギリギリ"外れる"球。
怒りのボルテージでギリギリのボール球を振らせる。
祐介が避けるのも想定に入れてギリギリデッドボールにしないのも、
ギリギリストライクゾーンから外すことも
亮輔のコントロールをもってすれば造作もない事だった。

球が祐介から離れるように
しかし、届きそうな距離感で真っ直ぐ飛んでいく。
祐介がギュッとバットを握る。

「振れ!」
力いっぱい思いを込める亮輔。

祐介はギリギリまで引き寄せ、
左足を前に突き出し、
重心をバットに乗せて
思い切りスイング!

「よし!」
亮輔がストライクを確信する。

バットと球が交錯する。

スパーン!
ネットにボールが入る。
もちろんバットには当たらない。

「!!」
その時、亮輔は祐介の体勢を目の当たりにする。

重心をバットに乗せ、
球めがけてスイング!
そのバットは真横に寝かせた体勢で
祐介は完全に停止していた。

「振りきっていない!」
"バント"でも分かるようにバットを振った!振ってない!
はバットを寝かせた状態から手首が返っているか、引いているか。
"バント"の真横の状態は振った事にはならない。
亮輔から見ても明らかにバットは真横かそれよりも少し引いている。

「ボーール!!」
女神が高らかに言い放つ。
これで先程の顔面狙いのボールを含め
1ストライク3ボール。


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