ごきげんよう、愛しき共犯者さま

 それ、と。
 確かに兄は薬包を指差しながら、そう言った。

「……きゅ、うに、なんっ、なの、」

 けほりと噎せた。米が喉で暴れたから。張り付いているそいつらを水で流し込んで、本当にどうしたんだと怪訝(けげん)な視線を向ければ、兄は静かにため息を吐いた。

「……聞いた。母さんから」

 グラスを置いて、箸も置く。視線を手元に落としたまま、「そっか」と相槌をうった。
 吐いた花に触れると感染する。その特性上、父はともかく兄には病気の詳細をきちんと説明する必要があると母は判断したのだろう。万が一、知らずに触ってしまったら大変だから。
 まぁ、感染したとしても発症するとは限らないから、念には念を、ということなのだろう。知られずにいられるとは思っていなかったけれど、本音を言えば、知られたくはなかった。

「……内緒」
「あ?」
「さすがに言えないよ」

 へらり。無理矢理、表情筋を動かして、へらへら顔を作る。もうこれ以上は何も話さないからね、という姿勢を、残りのおにぎりを頬張ってもしゃもしゃと咀嚼することで伝えれば、兄はまた、ため息を吐いた。

「俺の、知ってる奴か」
「……へ」
「……蒼汰(そうた)か?」

 ごきゅり。おにぎりを飲み込んだ瞬間、終わらせたつもりだった話題を、そんなの知らぬ存ぜぬと兄が続けたものだから、開いた口を塞げなかった。
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