嫁入り前の懐妊契約~極上御曹司に子作りを命じられて~
(手の届かない人を本気で好きになっちゃうなんて、私ってバカだな)

 美琴は慌てて指輪を外した。ずっとつけていたら、余計に苦しくなるような気がしたからだ。

「なんで外すんだ?」
「だって、こんな高級そうなものに傷をつけたらと思うと怖いです」

 丁寧に箱にしまい直そうとして、美琴は気がついた。指輪の内側になにか書かれている。ブランド名かなにかだろうか。光に透かして読もうとすると、礼が焦ったような声をあげた。

「それはっ」

『R to M』指輪にはそう刻印されていた。

(RとMって……礼さんと私?)

「意外とめざといな。気づかれないかと思ったのに」

 礼が照れたようにぷいっと顔をそむけた。彼のその表情に愛おしさがこみあげた。美琴はあははと笑いながら礼を見る。

「そんなに照れることないじゃないですか」
「こういうのは、なんだか気恥ずかしい」
「それなら無理して刻印なんかしなくても」

 礼はぐいっと美琴の腕をひくと、自身の胸のなかにすっぽりと包みこんだ。

「俺のイニシャルを刻んだものを君に身につけて欲しかった。子供みたいな独占欲だ」

 礼の鼓動がいつもより速いような気がした。彼の力強い腕のなかは温かくて心地よくて、ずっとこうしていられたらいいのにと美琴は叶わない夢を見る。

「大事にします。礼さんからの初めての贈り物」
「うん」

 ふたりは優しく微笑みあった。

 束の間の甘い幸せにひたる美琴に、もうひとりの冷静な自分がささやく。

『そろそろ止まらないとね。だって、崖に向かって走ってるようなものだもの』








< 50 / 107 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop