嫁入り前の懐妊契約~極上御曹司に子作りを命じられて~
 うっすらと東の空が白み始めたころ、礼は小さな箱を美琴に手渡した。

「約束通り、指輪を買ってきた」
「約束って……受け取れないです。私にはそんな権利もないし」

 美琴が断ろうとすると、礼は途端にむすっと不機嫌そうな顔になる。

「これは君のために選んだものだ。君が要らないと言うならただのゴミになってしまうな」

 そんなふうに言われたら、なにも返せなくなってしまう。美琴が黙り込んだことで礼は勝利を確信したようだ。

「つけて見せてくれ」

 美琴は戸惑いながらも、そっと箱を開けた。思わず言葉を失ってしまうほど、美しい指輪だった。大粒のダイヤモンドを淡いピンクの石がぐるりと囲んでいる。

「このピンク色のは?」
「ピンクダイヤモンド。思った通り、桜色は君によく似合う」

 礼は箱から取り出した指輪を美琴の薬指にはめた。まだ薄暗い部屋のなかでもキラキラと輝くその指輪に美琴は見惚れてしまった。

(いつかこの家を出るときにはきちんと返そう。でも、今だけは……)

「こんなに素敵な指輪は初めて見ました! 着物にもきっと似合いますね。うぐいす色の訪問着、白地の振袖……どんな着物が一番似合うかな」
「白無垢もしくは桜色の打掛。婚約指輪がもっとも映えるのは婚礼衣装だろう」

 礼は穏やかに笑みながら、言う。美琴の胸はぐっと締めつけられるように痛んだ。
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