嫁入り前の懐妊契約~極上御曹司に子作りを命じられて~
「もちろん君も出席するからだ。ドレスでもいいが、君は和装のほうが似合うし」
「な、なんで私が出席するんですか? 篠宮家なんて縁もゆかりもないのに」

 あきづきの顧客に篠宮の関係者はいない。きっともっと大きな呉服屋と付き合っているのだろう。

「パーティ―にパートナーを同伴するのは当然のことだろう」
「パートナーって、それはただの方便で」

 正直、この屋敷で働く人々から婚約者扱いされているだけでも心苦しいのに。笑顔で「若奥様」などと話しかけられると、どんな顔をしたらいいのか困ってしまう。

「御堂家と篠宮家は縁が深いんだ。今の御堂流があるのは篠宮のバックアップのおかげでもある。だから、君のことは正式に紹介しておきたい」
「それなら、なおのこと無理ですよ! 私は小さな呉服屋の娘で、礼さんたちのような上流階級とは住む世界が違います。笑われるだけですから!」
「そんなに嫌か?」
「これだけは、勘弁してください!」

(だって私が笑われるだけならいいけど、礼さんまで笑い者になったら困る)

「わかった。なら、嘘偽りなくあきづきの娘として行こう」
「えぇ?」
「俺の信頼する呉服屋を篠宮家に紹介する。なんの問題もないだろう。あきづきにもいい話だぞ」
「うっ……」

 たしかに新規の顧客、それも国内有数の資産家とのつながりは欲しい。勝司も大喜びだろう。でも……。

「それが嫌なら婚約者として参加する。どっちかを選べ」

 礼はお留守番という選択肢を与える気はないようだ。

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