夕ご飯を一緒に 〜イケメン腹黒課長の策略〜
10.



 次の日の日曜日は、片付けをしながら買う必要のある物をピックアップしていった。
 大きな家具は元から持っていた物で間に合うけど、バス・トイレ用品や新しくしたいキッチン用品など、買いたい物は結構あった。
 太一はベッドが欲しいらしい。
 どうやって買おう。やっぱりネットかな、届けてもらえるし、でもやっぱり実際に見て選びたいよね、と思いながら昼ご飯のスパゲッティをゆでていたら、スマホが震えた。
 メッセージは久保田さんから。

 ーーー買い物があれば、車出しますよ。

 自分も買いたい物があるからついでに、ということだった。
 車なんて、私の実家に行った時くらいしか乗らないので、太一はちょっと乗ってみたいらしい。
 せっかく声をかけてもらったし、甘えることにした。

 どんな車なんだろうと思っていたら、なんかちょっと高そうな感じの国産車だった。車には全く興味がないから車種とかはわからないけど、シートはふかふかで、車内も静か、そして久保田さんの運転はスムーズで安全運転、乗り心地はとても良かった。
 運転する久保田さんはカッコよくて、絵になる。助手席に座る太一も可愛いし、私は後部座席で目の幸せに浸っていた。



 行き先は、家からそんなに遠くないホームセンター。
 久保田さんはパソコン用のケーブルが欲しいんだそうで、電気店も入っているショッピングビルに車を停めた。
 車を降りて、私と太一はホームセンター、久保田さんは電気店へ。久保田さんはすぐ終わるから、後から追いかけますと言われた。

 ひと通り周って、メモしてきた物をカゴに入れる。
 食器売り場を通り過ぎようとしたら、太一が足を止めた。
「お茶碗とか、いるんじゃない?」
「お茶碗?」
「あの人の」
「ああ、そっか」
 ご飯食べに来るんだもんね。今までは間に合わせだったけど、来るって決まってるならあった方がいい。
「お茶碗とお椀と、お箸にスプーン、フォークも?」
「丼、皿、カップ」
 2人で思い付くまま選んでいく。
 と、太一が一つずつ多く取り始めた。
「多いよ、太一」
「お客さん用にしようよ」
「お客さん?ああ、まあ、今度弥生さんも呼ぶし、あってもいいけど。置くところ増えたしね」
 そうしたら、太一がにこにこして言った。
「これで美里ちゃんが遊びに来ても大丈夫だね」
「来て欲しいの?」
「引っ越しが落ち着いたら行かせてねって、この前言ってた」
「この前?」
「ゲームしてる時。チャットで」

 ああなるほど。
 太一と中村さんは、オンラインでゲームをしながら、すっかり仲良くなっている。

「こんなもんかな」
 カゴとメモを見比べていたら、また太一の足が止まった。ベッドを見ている。
「買おうか?組み立てないといけないけど」
「できるの?」
「できるよ。太一も手伝ってね」
「僕、やりますよ?」
 後ろから久保田さんの声が降ってきた。
「そのくらいなら任せてください」
「あ、でも車には乗らないんじゃ……」
「後ろのシートを倒して、トランクとぶち抜きにできますから、大丈夫ですよ。小平さんはちょっと横から圧迫感があるかもしれませんけど」
「それは大丈夫です。小さく丸まってますから」
 そう言うと、久保田さんはあははと笑った。
 太一もちょっと笑っている。
「僕が後ろ行くよ。僕の方がちっちゃいし」
「うーん、乗ってから考えよう。ほら、選んで」
「ほんとにいいの?」
「いいよ。まず太一のを買って、お母さんも寝てみて、良かったらお母さんのも買う」
「実験台か」
「まあまあいいから」
 太一が選んだのはシンプルな木枠のベッド。
 マンションの床は明るい木目だから、きっと合うと思う。マットレスと合わせても、手頃な価格だった。
 でもなあ……。
「マットレスはさすがに車に乗らないですよね……」
「ああ、でも明日には届くみたいですよ」
 ほら、と久保田さんが指す先には、配送スケジュールがある。
「今日はとりあえずフレームを組み立てて、寝られるのは明日からになるけど」
 久保田さんが言うと、太一は頷いた。
「大丈夫」
「じゃあ決まりだね」
 ……この2人、なんだか雰囲気が凄く良くなった。打ち解けてて、友達みたい。自然な空気感。
 イケメンと、イケメン予備軍。2人に見惚れてぽーっとしてしまった。
「このカードをレジに持って行けばいいみたいですね……小平さん?」
 声をかけられて、ハッと気付く。
 久保田さんが、私の顔を覗き込んでいた。
 近い近い。
「あっはい、じゃあ私、お会計行ってきます」
 太一からカードを受け取って、レジに向かう。
 少し離れて振り返ると、選んだベッドのそばで話す2人が見えた。

 仲良くなった、なあ。
 太一がちょっとツンツンしてただけで、久保田さんは元々友好的だったんだから、太一が受け入れれば仲良くなるのは当然だ。
 カゴの中の食器を見る。
 太一から、言い出したよね。久保田さんの食器がいるんじゃない?って。
 気が利く中に、太一の優しさも感じられて、私は嬉しくなって、会計を終えた。



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