夕ご飯を一緒に 〜イケメン腹黒課長の策略〜
20.


 土曜日。
 弥生さんの壮行会をした。

 太一はほうれん草とタマネギのカルボナーラ、私ははっと鍋、圭さんは野菜サラダをそれぞれ作り、後はいろいろ買ってきて。
 野菜サラダはレタスをちぎるだけにして、あとは千切りミックスを買ってきた。圭さんはレタスをちぎるのも、パプリカをハサミで切るのも器用にこなす。ドレッシングは弥生さんの好きな和風タマネギを買ってきた。
 太一はカルボナーラに合う野菜を研究するため、水曜日から毎日カルボナーラを作り続け、私も圭さんも当分カルボナーラは食べなくていいと思った。
 私は前日の夜、小麦粉をこねて水に浸けておいた。これが、はっとになる。当日の昼過ぎから野菜と鶏肉を煮込み、汁を作って、浸けておいた小麦粉を手で薄く伸ばして汁に入れる。
 この薄く伸ばすのは、圭さんにもやってもらった。チーズ並みに伸びる小麦粉は初めて見たらしく、目を輝かせながらやってくれた。子どもみたいで、可愛かった。



 3時に太一が家に迎えに行って、弥生さんは家に来た。
「広いわねえ……ウチのアパートとは大違い」
 うふふ、と笑って弥生さんは玄関を見回す。
「どうぞ、入っていろいろ見てください。太一の部屋もありますから」
 あらあ、とか、まああ、とか感嘆の声を上げながら、太一の部屋、洗面所、お風呂と見てまわり、リビングのドアを開けて、弥生さんは目を見張った。
「はじめまして、久保田圭です」
 圭さんが軽く頭を下げて挨拶をする。
 弥生さんは、私と圭さんを交互に見て、太一を見て、もう一度私を見た。
「あの、ここの大家さんです。上の階に住んでる」
「ああ」
 弥生さんには、大体の事情を話してあるから、すぐにわかったみたいだった。
「真理子ちゃんの息子さんね。はじめまして」
 挨拶をした後、弥生さんは私を見る。
 『それで?』と言ってるみたいな表情。
「あの、今、お付き合いをしてます……」
 言っているうちに恥ずかしくなってきてしまって、尻すぼみになる。
 駄目だ、こんなんじゃ圭さんが不安になってしまうじゃない。
「弥生さんに、ちゃんと紹介したくて」
 顔がほてるのがわかったけど、そこは無視。
 きっぱりはっきり言った。
 弥生さんは、にっこり笑った。
「ありがとう、紹介してくれて。良かったわね、歩実ちゃん」
 そして圭さんに向かう。
「歩実ちゃんとたいちゃんのこと、よろしくお願いします。2人共、優しくて真面目ないい子だから」
 圭さんは、弥生さんをまっすぐに見た。
「はい。2人を守れるように努力します」
 弥生さんは、またにっこり笑った。
「りりしいわねえ。小さい時の真理子ちゃんにそっくり」
 圭さんは照れ臭そうに笑う。
 和やかな雰囲気で、弥生さんの壮行会は始まった。




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