夕ご飯を一緒に 〜イケメン腹黒課長の策略〜
「歩実」
駅のホームで電車を待っていたら、後ろから声がした。
振り向けば、優しい笑顔の圭さんがいる。
「お疲れ様です」
私も笑顔で返したら、少し不満そうな顔をした。
「どうかしましたか?」
「……丁寧語、いつまで?」
私の口調のことは、ちょくちょく言われていることだ。
「もう癖になっちゃってて……それに仕事の時にもうっかり出そうだから、当分はこのままでお願いします」
「壁を感じるなあ」
「ありませんよ、そんなの」
「いや、意外と強固な壁だよね」
「そんなことないですって」
ぶつぶつ言う圭さんをなだめていたら、電車が来たので乗り込む。
今日も混んでいて、反対側のドアまで一気に押されて進んだ。
圭さんは、私を守るように腕を背中に回す。こうしてもらうと、凄く安心できる。
見上げると、圭さんは外を見ていて、私の視線に気付くと、微笑んだ。
私も笑顔を返して、同じように外を見る。
何気ない日常。この上ない幸せに包まれる。
あったかい気持ちが体からあふれ出るみたい。
「機嫌いいね、歩実」
電車を降りたら圭さんが私を観察するように見る。
私はえへへと笑った。
「なんか、幸せで」
言ったらちょっと恥ずかしくなって、先に階段を降りた。
そのまま改札を出る。
道に出るところで少し待っていたら、圭さんが隣に立った。
「あのさ」
見上げたら、圭さんの顔は真っ赤だった。
「ほんと、わざとやってるでしょ」
ちょっと口を尖らせて。でも怒ってるんじゃないことはわかる。
「そういうことばっかりしてると、外でも襲うよ?」
「そ、それは……やめてください……」
ていうか、私、なにかした自覚ないんですけど。
「じゃあ、丁寧語やめて」
「その『じゃあ』はどこからつながるんですか」
「いろんなところ」
「もう……脈絡ないなあ」
呟きながら歩き出そうとしたら、圭さんに止められた。
なにかと思ったら。
圭さんの手が、私に向かって差し出された。
大きい手。いつもあったかくて、優しく私の手を包み込んでくれる。
それと、優しい笑顔。
もう、このまま昇天してしまいそう。
圭さんの手に、私の手を重ねる。
「帰ろう。太一君、待ってるよ」
圭さんは、私の手をしっかり握って、歩き出した。
「はい」
私も、圭さんに合わせて歩き出す。
「今日、夕ご飯なにかな」
「多分、鶏肉です。冷蔵庫にありました」
「親子丼かな」
「どうかな。照り焼きかも」
「ああ、それもいいね」
「あとは……あっチキン南蛮作ってって言ってなかった」
「なにそれ。あのワゴンの弁当?」
「そうです。美里ちゃんがあれ食べて、太一が作ったのも食べたいって言ってました」
「僕も食べたいなあ」
「私もです。でもめんどくさいって言いそう」
「じゃあ僕も手伝うって言うよ」
「ああ、それならやるって言うかも」
毎日、こうやって話しながら帰ろう。
太一に『ただいま』って言おう。
それから着替えて、それぞれの座椅子に座って。
夕ご飯を一緒に。


