朝戸風に、きらきら 4/4 番外編追加


◽︎


「分かりました、
じゃあもう少しアクセントカラーの比率抑えます。

直ぐ修正出します。ええ、大丈夫です。
では後ほど、お送りしますので。」


普段よりも随分と丁寧な声色で最後まで告げた男は、スマホを切った瞬間、体の奥深い場所から連れてきたような溜息を漏らした。


「○社さんの案件ですか?」 

「そう。
先方、この間と言ってること真逆なんだけど。
お前代わりに殴ってきて。」


「それは上司命令でしょうか。」

「うん。あ、これパワハラ?」 

「ええ、とっても。」

それはまずいな、と何も焦りを感じられないトーンで感想を述べて、パソコンチェアの背もたれに存分に身体を預けた男が、それを半回転させて私の方を見向く。


青砥(あおと)、これ後で郵便出しといて。」

「了解しました。」

この男のために持ってきたコーヒーをデスク脇に置いて、差し出された茶封筒を受け取る。


そのまま仕事部屋を出て行こうと翻した私を今度は「その」と名前で呼んだ。


「……何ですか、那津(なつ)さん。」


「お前は仕事になると、急に頑なになるな。
さっきまで間抜けな顔で、
タコのウインナーとか言ってたくせに。」


「当たり前です、仕事中ですから。」

「別に仕事中でも、
可愛く"依織"って呼んでくれて良いけど?」

「セクハラでしょうか。」

「現代社会における部下との接し方、むず。」



やはりそこまで感情も反省もこもっていない感想を漏らした男は、諦めたように肩をすくめ、マグカップを指差しながら「さんきゅ」と軽く礼を告げた。


「……そんなことでどうするんですか。」

「…何が。」



____これから私以外の人を、雇った時ですよ。



音にするつもりだったそれは、
うまく言葉に出来なかった。

 
情けなく封筒を握る手にそっと力を込めつつ、「いえ、何でもないです。」と戯けた声色と笑みで誤魔化して、今度こそ仕事部屋を後にした。



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